SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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121.恋のあり方(理樹×西園)

 ――2月14日、バレンタインデー。昼休み。

 

「……まったく、みなさん製菓店のイベントに大騒ぎしすぎです」

「う……」

 

 家庭科部の部室(和室)でお弁当を広げる僕と西園さん。

 雪が降り始めてからは、西園さんと僕は中庭ではなくここでお弁当を広げるのが習慣となっていた。

 

「……どうしたんですか、直枝さん? 先程から箸が進んでいないように見えますが」

「え、ええっ!? あの…えっと、ちょっと食欲が!」

「……慌てすぎです。箸から玉子を落としています」

「あ、ご、ごめん」

 クスクスと笑う西園さん。

 

 よかった…気付かれてはいないみたいだ。

 僕は西園さんから見えない位置に置いた購買の袋を自分の脇に寄せた。

 この無地の購買の袋はカムフラージュだ。

 もちろん購買の袋の下は昨日本を読みながら頑張ったラッピング。

 ……実は。

 この中には僕の手作りチョコが入っていたりする。

 

 

 今日、僕は西園さんにバレンタインチョコを渡します――

 だって僕は……。

 西園さんのことが好きなんだから。

 

 

 ……。

 うわぁぁぁぁぁーーーっ!!

 『好き』だなんて改めて考えたら…めっっっちゃくちゃ恥かしくなってきた!

 どっ、どうしよう!? 

 ほ、ほっぺが熱いよーっ!

 

 横目でチラリとだけ横にちょこんと座っている西園さんを見た。

「……」

 まるでリスのように小さな口でサンドイッチをパクついていた。

 

――どっきどっきどっきどっきどっき!

 

 ただ横顔を見ているだけなのに鼓動が高鳴っていくのがわかるっ!

 よ、横にいる西園さんに僕の胸の音、き、聞えてないよね?

 わわわわっ! 考えたら余計に胸が苦しくなってきた!

 落ち着け僕ーっ!

 今は余計なことを考えないで、西園さんにチョコを渡すことだけ考えよう!

 

 すーーーーーっ…はぁーーーーーっ…すーーーーっ…はぁーーーーーっ

 深呼吸をするうちに、煮立った頭が冷めてきた。

 

 け、けど……。

 西園さん、僕のチョコなんて受け取ってくれるかな…。

 ……普通、男からチョコだなんておかしいよね。

 それに、もしこれを渡して今の僕たちの関係が崩れちゃったら……。

 や、やっぱり……。

 やっぱり……

 やめておいたほうがいい…のかもしれない。

 

「――……さん、直枝さん」

「…ん、うわぁぁっ!?」

 考え事に集中していたら、西園さんが僕を覗きこんでいた!

「……顔を見て叫ばれてしまうなんて心外です」

 プイとそっぽを向く西園さん。

「いや、い、いきなり西園さんの顔が近くにあったから、その、びっくりしただけで…」

「……冗談です。直枝さんの様子があまりにも奇妙でしたので」

「湯気が出そうなほど赤くなったかと思えば、突然青くなったり」

 う…。

 顔に出ちゃっていたらしい。

「なにをそんなに百面相をしているのですか?」

「えっと……その……」

 無意識に購買の袋に手が掛かる。

「そちらの袋は?」

「え、こっ、これ!?」

 西園さんの目線の先には…チョコの入った袋!

 し、しまった!!

 どどどどどどっ、どうしよう!?

「……ほう」

 そんな僕の同様とは裏腹に、西園さんは興味津々だ!

「なにをそんなに慌てるのですか? 気に掛かります」

「な、なんでもないよっ!!」

「……もしや女性には見られてはまずいようなDVDでしょうか?」

「断じて違うからぁーっ」

「……直枝さんもやはり男性でしたか……ぽ」

「へ、変なDVDとかじゃないってばっ!」

 もはや西園さんの中では袋の中身は怪しげなDVDで確定してしまっているようだっ!

 

 ああっ!!

 もう、こうなったら野となれ山となれだっ!

 

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「こっ……これぇっ!!」

 

――バッ!

 

 僕はギュッと目をつぶり西園さんに袋を突き出した!

「……これは……」

「私にもDVDを見ろということでしょうか? 直枝さんがそんなにハレンチだとは思いませんでした」

「……」

 

 僕はツッコミどころではなく、緊張のあまり声も出ない。

「……?」

 西園さんは……なかなか手にとってくれない。

 自分の手が震えだしたのがわかる。

 

「う…受け取って…よ…」

 懸命に声を絞り出す。

 

 ほんの数秒が何時間にも思えてくる。

 頭が真っ白になって息もままならない。

 

「……なんでしょう?」

 僕の手から静かに袋が抜かれた。

「中を見てもよろしいのでしょうか…?」

――こくこくっ、こくこくっ。

 恥かしくて、怖くて……僕は目をつぶって頷くのでいっぱいいっぱいだった。

 

――カサカサ

 購買の袋を開く音。

 続けて。

「………………!」

 息を呑む声。

 ……僕は恐る恐る目を開けた。

 

 目を開けると…。

「…………これは……?」

 西園さんが驚いた顔で、ラッピングされたチョコを手にしていた。

「きょ、今日はほら、ば、バレンタイン…でしょ?」

 緊張で自分が話していることがわからない。

「だから……えっと……その……」

 午前の授業中ににあれほど頭の中でリハーサルをしたのに…一言だって出てこない。

「……わたしに…ですか?」

 

――こくりっ

 

「……」

 チョコを見つめたまま、僕に目線を向けない西園さん。

「……」

「……」

 ……家庭科部の部室を緊張にも近い沈黙が支配している。

 沈黙が、怖い。

 

「……あの……」

 西園さんが沈黙を破るように声を出した。

「……直枝さんも人が悪いです」

 目線を下に落とす西園さん。

「……義理チョコでしたら、二人の時ではなくみなさんがいる場で渡して欲しいものです」

「ちっ、違うよっ!」

 思いもよらない言葉に大きな声が出てしまった。

 驚いたように西園さんが僕を見つめている。

 

「それは……っ」

 義理チョコと勘違いされたくない…っ。

「そのチョコは……っ」

 僕は…僕は…。

 

「ほ…っ」

 西園さんのことが……っ。

 

 

「本命チョコだからっ!」

「西園さんのことが大好きだからっ!!」

 

 

 言った……。

 言ってしまった……。

 

――……………………………………――

 

 今まで経験した中で最も怖い沈黙。

 自分が呼吸をしているのかさえわからない。

 大きく波打つ心臓だけが僕を支配している。

 期待を遥かにしのぐ不安。

 永遠とも思えそうな沈黙が僕を押しつぶそうとしている。

 

 

「……どうして」

 西園さんが小さく呟いた。

「……どうして…わたし…なんでしょう……?」

「…え…?」

 俯いている西園さんの表情はわからない。

「……リトルバスターズのみなさんは、わたしなんかよりもずっと魅力的な方ばかりです」

「……来ヶ谷さんも三枝さんもスタイルが良いです。わたしは遠く及びません……」

「……神北さんも能美さんも明るくムードメーカーです。わたしは遠く及びません……」

「……棗さんは直枝さんと息がピッタリです。わたしは遠く及びません……」

「……直枝さんは……」

「……そんなみなさんに好かれているんですよ……」

 そこまで捲くし立てると、西園さんが顔をあげた。

 

「……それなのに……」

「どうして…わたし…なのでしょう……?」

 西園さんの瞳は……深い戸惑いの色だった。

 

「…確かにそうかもしれない」

 僕がそういうと西園さんが小さく肩を浮かした。

「来ヶ谷さんも三枝さんもスタイルいいと思う」

「小毬さんもクドもムードメーカーだし、鈴とは気が合うよ」

「……」

 ゆっくりと目を伏せる西園さん。

「けどっ」

 僕は言葉を紡ぐ。

 

「僕は木陰で静かに本を読んでいる西園さんが好きなんだ」

「僕はみんなを後ろで見守っている西園さんが好きなんだ」

「来ヶ谷さんでもなく、葉留佳さんでもなく、小毬さんでもなく、クドでもなく、鈴でもなく――」

「西園美魚という女の子が――好きなんだ」

「好きで好きで…たまらないんだ」

 

「……」

 西園さんが静かに、ゆっくりと僕の渡したチョコレートのラッピングを解きはじめた。

 中からハート型のチョコレートが出てくる。

「……形はハートですか。典型的です。60点といったところでしょうか」

――パキッ。

 指先でチョコを摘まみ、小さく折った。

 それを自分の口に運ぶ。

「……湯煎が半端で、味も中途半端です。せいぜい30点しかつけられません」

 俯きながら、ちょこちょこと味わっている西園さん。

「……ですが」

 次第に西園さんの頬に赤みが差してきて……耳まで赤くなった。

 

 

「……愛情は100点満点です……」