ケース2:仕事も終わりました。
寮会の仕事を終えて学校を出ると、もう日は落ちてしまっていた。
僕たちはいつものように誰ひとりいない中庭のベンチに腰を下ろして、仕事終わりのジュースを飲んでいた。
「佳奈多さん、飲み終わった?」
「飲み終わったわ、とっくに」
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「……」
僕が立ち上がっても、ベンチから動かない佳奈多さん。
「どうしたの?」
「……」
「座って」
「?」
「座って」
佳奈多さんに言われるがまま、もう一度佳奈多さんの横に座った。
「腕」
「腕がどうしたの?」
「貸しなさい」
「いやまあ…いいけど」
佳奈多さんに左腕を差し出すと。
「――♪」
――ぎゅぎゅ~~~っ
「直枝~っ」
佳奈多さんがすごい嬉しそうな顔で僕の腕にしがみついてきた!
甘えんぼモードが発動したようだ!
と、思ったら
「……」
――パッ
突然、腕から離れる佳奈多さん。
ちょっと体の向きを変えたり、僕の腕を持って腕を回してみたり。
そうするとすぐに離れて何か考えるような仕草。
「?」
疑問に思っていると。
――ぎゅぎゅぎゅ~~~っ
「直枝っ」
まるで子猫が甘えるように佳奈多さんが腕にしっかりとしがみついてきた!
さっきのは……抱き心地がいいポイントを探していたようだ!
「直枝直枝直枝直枝~~~っ」
――ぎゅぎゅぎゅぎゅ~~っ、じたばたじたばた~~っ
嬉しかったのか、学校にいた間我慢していたのが爆発したのか、全力で甘えてくる佳奈多さん。
「もう、佳奈多さんはホント甘えんぼなんだから」
僕の腕を抱え込むように掴まっている佳奈多さんの頭を、優しく撫でる。
「~~~~っ」
融けてしまいそうなほど幸せそうな顔で僕の手の感触を楽しんでいる。
「――直枝」
「…ん、なに?」
「……なんでもない」
キュッと腕に力が加わる。
「直枝」
「……ん?」
「……なんでもない」
指に指が絡められ、佳奈多さんのしなやかな指が僕の指を摘まんだり撫でたりして遊んでいる。
「直枝」
「……ん?」
「1センチでも離れたら死んじゃうかも」
「じゃあ…離れないでよ」
「そう」
大切な宝物を抱くように僕の腕をしっかりと抱え込む。
佳奈多さん…本当に本当に幸せそうだ。
「どうしよ…」
「どうしたの?」
「直枝のこと……好きすぎてどうすればいいかわかんない」
「ほんと、佳奈多さんは甘えんぼだね」
僕はそんな甘えんぼな佳奈多さんの頭を優しく撫でた。