SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

Traffic Jam Products

156.ドSな佳奈多

#シチュ:理樹と佳奈多が付き合いはじめて1ヶ月ほど。2人でいても、どうしたらよいかよくわからない初々しい状態が続いていました。


***


――とある日。人もまばらな夜の時間帯に佳奈多は街の本屋にやってきていた。
「直枝とその……キ、キスまではできたのだけれど……はぁ」
少し熱く、けれど深いため息がこぼれる。
「……その後。その後が問題ね……」
佳奈多は勉強の知識は豊富だった。
しかし今まで檻と言って差し支えないような生活を送っていた佳奈多にとって、ソッチ方面の知識は全く入ってこなかったし、自分でも入れようともしなかった。
結果。
「直接的な…ア、アレ…はなんとなくわかるけど、その前に段階というものがあると思うのよね」
そのような理由で、いつも通り本から知識を得ようとここへ至ったわけである。
「英語の勉強然り、まずはマンガ本からかしら」
それっぽい本を探して大型コミックの横に差し掛かったとき、
「っ!」
それはあった。
「……ぐっ」
……平台に積まれている本の表紙からして想像以上にすごかった……。
「うう……こ、これでっ!」
赤面した佳奈多は、手近にあった割と女性向けっぽい絵柄な本をほとんど見もせずに取ると、すぐさま手芸と料理の本でサンドイッチしてレジでその本を買ったのだった。


***


「理樹君、まてまて~っ」
「悪いけど小毬さんには捕まらないよっ」
今日もまた、恭介が『第x回、校内缶蹴りだよ全員集合!』が行われていた。

僕が佳奈多さんと付き合うようになって風紀委の取締りがゆるくなった。
最近は雪もあり外で遊べないことも重なり、放課後の人が少ない時間帯に校内でちょこちょことこういった遊びが行われるようになっていた。
けどね、恭介……。
僕、デートのたびにいつもブツブツ言われてるんだからね……はぁ。

「隙ありだーっ!」
少し考え事をした隙に、鈴が横の教室から飛び出してきた。
「え、鈴っ!?」
――ぽふ~んっ
「捕まえた~っ」「捕まえたぞっ!」
横から鈴に抱きつかれ、後ろからは小毬さんに抱きつれてしまった。
「オーケー、理樹が最後だ。これで全員だな」
「あと少しだったのに……」
その時だ。

「ちょっとあなたたち」

廊下の先から凛とした声が響いた。
「あ、かなちゃん」
「どーした二木」
僕にくっつきっぱなしの2人。
目線の先には佳奈多さんが腰に手を当てて立っていた。
制服には『風紀委』の腕章。
前との違いは冬服で脚にストッキングを穿いているところだ。
いや。
最近は笑顔が増えた佳奈多さんだったが、今日はどこか冷たい表情の気がする。
「佳奈多……さん?」
ツカツカとリトルバスターズの面々へ歩み寄る佳奈多さん。
「ここは校舎。あなたたちは何をしているのかわかっているのですか?」
「缶蹴りだが……」
「ハ?」
佳奈多さんのぶつける様な言葉に恭介でさえ怯んだ。
「ルール違反よ。わかる? 社会のルールも守れないなんて最低ね、最低」
「んなこと言うこたねぇだろ!」
――ギロッ!
「……ス、スミマセン……」
睨み一発で真人が一瞬で萎縮した。
鈴も小毬さんも僕にしがみついて震えている。
そうだ。
目が……冷たい。
冷たいナイフを突き立ててくるような、そんな感覚。
そう。
佳奈多さんと葉留佳さんが仲違いしていた時と同じだ。
突然の変化。
一体どうしてしまったんだろう?
「……か、佳奈多さん……?」
「……」
一瞬目を伏せた佳奈多さんだったが、すぐに鋭い目線を僕に突き立てた。
「直枝理樹」
呼び方まで戻ってる……。
「えと……」
「片づけが終わり次第、代表で直枝理樹が生徒会室まで来ること。以上よ」
言い捨てるようにそれだけ言うと、きびすを返し佳奈多さんはツカツカと歩き去った。

「ねーねー理樹くん、おねぇちゃんと何かあったの?」
すぐさま葉留佳さんが寄ってきた。
「ううん、何もないけど……」
「何もねぇ割にはすげぇ機嫌が悪かったぞ」
真人もどこか心配顔だ。
「……むしろ何もないからこそ二木さんは機嫌が悪いのではないでしょうか?」
「西園女史の言う通りだな。理樹君は間違いなく奥手だろうからな。付き合う女性は苦労しそうだ」
「確かに本当に何もしてないけど……って、何の話をしてるのさーっ!」
ぽむ、と恭介の手が僕の頭に置かれた。
「何はともあれ俺達も怒られないことをいいことに校内でやりすぎた。悪いが理樹、謝ってきてくれ」
「う、うん」
僕はみんなに見送られて生徒会室へと足を向けた。

***

――コンコン
『入りなさい』
さっきと変わらない冷たい佳奈多さんの声が響いた。
教室に入ると、仕事をしていただろう佳奈多さんが立ち上がった。
「そこ」
佳奈多さんが指を差した先は――。
「床?」
「そ。正座しなさい」
「ええっ!?」

――ギロッ
全く感情の篭っていない冷たい目。まるで飽きたオモチャを見るような目。
「え……」
それが……僕に向けられていた。
僕は……。
言われるがまま正座をした。
「佳奈多さん、一体どうしちゃったのさ」
それには一言も答えず、ガラガラと椅子を引きずってきて僕の前に置いた。
そこに佳奈多さんは座ると、
「……」
ストッキングに包まれスラリとしたラインが映える脚を組んだ。

 

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う……目の前でそういうことをされると、つい目で追ってしまう。
「フン」
その僕の様子を見てか、佳奈多さんが見下すように鼻で笑った。
「う……」
「ねぇ、直枝理樹」
頭上から冷たさの中にもどこか妖艶な色を帯びた声。
「今日だけど」
「う、うん……」
「缶蹴り。楽しかった?」
その声は尋問のそれのように感じられる。
「う、うん、まぁ……」
「ふぅん。あ、そ」
そう言うと、なぜか佳奈多さんは穿いていた上履きに指を掛け、無造作に、行儀悪く脱ぎ捨てた。
そして……
その足先が僕の顎の下に掛けられた。
「!?」
――クイッ
佳奈多さんの足先で。
うつむいていた僕の顔は強制的に上を向かせられた。
「か……佳奈多さん……?」
「なぁに?」
まるで遊ぶように、足先で僕の喉から顎にかけてなぞる佳奈多さん。
佳奈多さんの足の指とストッキングの感触が僕を刺激している。
「楽しかった、ねぇ?」
「……うう……」
「神北さんと棗さんに抱きつかれて、さぞ楽しかったでしょうね」
「あ…」
ピン、と足で顎先を跳ねられた。
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなくて」
そ、そうだ。
ぼ、僕は彼女がいるのに何も気にせずそういうことを……。
「ねぇ、直枝」
「な、なに?」
「あなた、私の彼氏よね?」
「もちろんだよ!」
「なら……」
スッ、と顎から佳奈多さんの足が外された。
「キスして」
「う、うん」
僕が立ち上がろうとすると――
佳奈多さんの足が僕の顔の前に差し出された。
「足に。キス」
「え、ええっ!?」
僕が驚いて佳奈多さんを見上げると、
佳奈多さんはまるで虫をいじめる子どものような、被虐的で恍惚とした表情を浮かべていた。
その時だった。

――バサッ

佳奈多さんの服から何かが落ちてきた。
上手いことその足を伝って僕のところに落ちてきたのは……

「本……?」
「え? あ、ああああっ!?」
さっきまでとは打って変わって慌てる佳奈多さん!
僕はそのやたらと付箋が貼ってある本を手に取った。
「み、見ないで――」
佳奈多さんのその言葉は一瞬遅かった。
こ、これって!!
「『男を虜にする方法』……!?」
「ちちちちが、ちが、直枝、返――」
佳奈多さんが手を伸ばすより速く僕は読みながら佳奈多さんに背を向ける。
直枝、返してっ!と声がするけど今までいぢめられたお返しっ!
僕はサササッと本を確認した。
表紙はレディースコミックのような女性マンガの画風だけど『S女へ!』とかそんな文字が躍っている。
中を開くと、Sッ気ムンムンの女の子が男の子をいじめて男の子はなぜか女の子の虜になっちゃってるような感じだ。
し、しかも付箋だらけだ!!
読み込みがハンパないッ!!
ページの色んな場所に付箋が貼ってあって
『呼び出す口実を見つけること』
とか
『人気のない場所に呼び出すー>生徒会室?』
とか
『何があっても冷たくするようにガンバルこと。笑顔はダメ絶対』
とか
『虫を見るような感じで足でもてあそぶー>直枝よろこぶ』
とか書かれているっ!!

「って、なにしてるの佳奈多さん!?」
「かかかか返しなさいっ!」
――バッ!!
佳奈多さんはその本を僕から奪い返すと、胸元にしっかりと抱いて僕からズザザザッと距離を置いた。
「えっと、佳奈多さん?」
「はぁはぁはぁ……っ!! こ、ここ、こっ、これは違うからっ!」
もう佳奈多さんの顔なんてゆでダコだ。
「……~~~~~~っ」
ぷしゅーっと音まで聞こえてきそうな赤さだ。
「ま、まずは落ち着こうよ。よかったら話してくれないかな?」

首をブンブン振るだけの佳奈多さんだったが、少しずつ落ち着いてきたようだ。

「……つ、付き合ったのはいいけどその後どうすればいいかわからなくて……」
顔が真っ赤のままの佳奈多さんを椅子に座らせると、事情を話し始めた。
「今まであの……牢獄みたいな家にいたからそんな知識、本当にゼロだったから……」
「だからそういう本を買って参考にしたんだ?」
コクリとうなづく。
はぁ……。
勉強熱心なところはいいんだけど、まさかよりにも寄ってこういう趣味のヤツを参考書にするなんて。
佳奈多さんは生真面目なんだか抜けてるんだか。
「直枝……」
「ん?」
「普通……そういうことしないの?」
「……えと……うん」
またプシュ~~~~ッと真っ赤になる佳奈多さん!
「こういうことはしないけど、こういうのならいいんじゃないかな?」
僕は真っ赤になってうつむいている佳奈多さんの手を優しく取った。
その綺麗な手の甲に顔を近づけ、

――ちゅっ

キスをした。
「手の甲にキスは敬愛の意味があるって聞いたことがあるよ」
「な、直枝……」
「それとね」
手を離すと、僕は佳奈多さんの顔に近づいた。
「直枝……」
顔にかかる髪を手で避ける。ふわりとミントの香り。

――ちゅっ

そしてホッペにキス。
「ホッペは親愛」
「……」
佳奈多さんが気持ち良さそうに恥ずかしそうに目を細める。
そして最後は……
「佳奈多さん、目を閉じて欲しいな」
「……うん……」

――ちゅっ

唇にキス。
「……唇は愛情だよ」
「直枝……」

「愛してる、佳奈多さん」
笑顔で僕はそう言った。

……ぷしゅ~~~~……。
「って、佳奈多さん!? 佳奈多さん!?」
顔を真っ赤にした佳奈多さんはショートしていたのだった……。


***


一方その頃、残されたリトバスメンバーは!
「はっ! そういえば!」
「どうした、能美?」
「恭介さん、それが佳奈多さんのことなのですが、言ってもいいのかどうか……」
「二木のことか。さっきの様子と関係するかもな。聞かせてくれないか?」
「はい……実は佳奈多さん……」

「夜になってはコッソリと起きて、ベッドの下にしまっているその……エッチな本をそれはもう熟読しているのですっ! しかもノートまで取る熱心さなのですっ!」