SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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144.ゴキ、襲来

 #シチュ:理樹が佳奈多たちと大掃除をするようです。

 

「集まったわね」

 佳奈多さんが寮の前に集まった僕たちを見渡す。

 僕たちというのは、僕と鈴、葉留佳さんとクドに小毬さんだ。

 他のメンバーは年末ということもあって帰省中だ。

 恭介も残っているけど用があるとかで今は出かけている。

 

「んでお姉ちゃん、メールに用件が書いてなかったけど、なんで私たち呼ばれたの?」

 あれ、おかしいな。

「僕がもらったメールには用件が書いてあったけど」

「うーん?」

 頭に三角巾をつけた小毬さんも首を捻る。

「大掃除するんだよね?」

「へっ!?」

「私も佳奈多さんからそう聞きましたので自前のエプロンを持参しましたっ」

「あたしも、ほら、ねこさん軍手をもってきたぞ。一番のお気に入りだ」

「りんちゃんの軍手もクーちゃんのエプロンもかわいいね~」

 クドも鈴も準備万端で自分のアイテムを楽しそうに見せ合ったりしている。

「早速だけど今日はあなたたちに共用スペースの大掃除を手伝ってもらうわ」

「な、なんだってーっ!?」

「葉留佳には用を書いたら来ないと思ったからあえて書かなかったの」

 僕も佳奈多さんの言う通りだと思う。

「うっ、急にお腹が…」

「痛くないから」

 佳奈多さんがすかさず葉留佳さんの襟を捕まえた。

「私は掃除とかそういうのが一番嫌いなのにーっ! お姉ちゃん知ってるくせにーっ」

「これを期に好きになればいいじゃない」

「それおーぼーですヨっ! お姉ちゃん権乱用ですヨっ!」

 お姉ちゃん権ってなんだろう…?

 ジタバタする葉留佳さんをよそに、佳奈多さんが説明を始めた。

「掃除をする場所は女子寮娯楽室と女子寮洗濯室、後は玄関ね」

「クドリャフカと葉留佳は玄関をお願いするわ」

「らじゃーっ」「う~う~っ」

「葉留佳はそのうーうー言うのをやめなさい」

「神北さんと棗さんは女子寮洗濯室」

「了解だよー」「わかった」

「下着の忘れ物はどうせ誰も取りに来ないから、カゴにまとめて私のところまで持ってきて」

 佳奈多さんがテキパキと指示を飛ばしていく。

「僕は?」

「直枝は私と娯楽室の掃除」

 

 

「――直枝、テレビどかして」

「うん。う…お、重っ」

「あなた男の子でしょう? これくらいで音を上げない」

 僕と掃除用エプロン姿の佳奈多さんの二人で、20畳はある娯楽室を掃除していく。

「そこのテーブルもずらしてくれないかしら? 掃除機がかけづらいから」

「う、うん。佳奈多さんも持つの手伝ってよ」

 そう言ったら佳奈多さんが手を止め、ナイフのような視線を向けてきた。

「その大きさなら1人で問題ないでしょう?」

「いやまあ…」

「なら、あなたが1人で持つことが可能なのに、わざわざ2人で持ち上げる必要性はどこにあるのかしら?」

「そう言われると困るけど…」

「口を動かしてないで手を動かしてくれない?」

「……」

「う…お、重い」

 逆らえない自分が悲しいよ…。

 どうやら娯楽室は重いものが多いから、男の僕が選ばれたみたいだ…。

 

「ふぅ、これで…よいしょっと。最後かな」

 娯楽室は見違えるほど綺麗になっていた。

「あとはアレの後ろを掃除したら最後ね」

 佳奈多さんが視線を送ったほうを見る。

「アレって…ほ、本棚?」

「本棚以外の何かに見える?」

「あれの後ろはわざわざやらなくてもいいんじゃないかな…?」

 むしろあんなのを持たせられたら僕は死ぬかもしれない。

 って、また佳奈多さんのナイフのような視線が向けられていた!

「いつも掃除をしない場所を掃除するからこそ大掃除の意義がある」

「本棚の後ろを掃除しなかったら、今までのことは全て無駄だったと言っても過言ではないわ」

 …過言だと思う。

「けど、さすがに本棚を直枝1人で持てとは言わないから安心して」

 佳奈多さんは本棚の前にいくと、上の本だけ抜き始めた。

「全部出すのは面倒だし、上の本だけ出して二人で持ち上げるわよ」

「うん」

 上の2段の本だけを取り出して脇へと寄せた。

「少し前に出すだけでいいから」

「わかったよ」

 2人で本棚に手を掛ける。

「いちにのさん、でいくわよ」

「うん」

「いち、にの…」

「「さんっ!」」

 

――ズズズッ

 さすがに2人でも重くて引きずるようになってしまう。

 

「んん…っ…、この辺でいいわ」

「う、うんっ」

――ズズッ

 

「ふぅ、後ろはどうなってるんだろ?」

 僕と佳奈多さんの2人で本棚の後ろを覗き込む。

 何年も掃除を怠っていたのか、そこにはホコリの山が出来ていた。

「想像以上に汚いわね…」

「ホコリだらけだね…」

 

――ゴソゴソ。

 

「ねえ、直枝」

「どうしたの?」

「今、このホコリ動かなかった?」

「ホコリが? 動かないよ」

 

――ゴソゴソ。ゴソゴソ。

 

「そこ」

 佳奈多さんが指を差す。

「ホントだ。どこからか風でも吹き込んで――」

 その瞬間だった!!

 

――カサカサカサカサーーーッ!!

 

 いくつもの黒い塊が床を滑るように駆け出したっ!

「ゴ、ゴ、ゴキブリだぁーーーっ!!」

 僕の声にあわせるように

 

――バッ!ババッ! バッ!

 ゴキブリが一斉に羽を開いた!

 

――ブーーーンッ! ウゥーーンッ! ブーンッ、ブーンッ!カチャッ!

 

「ひやあぁぁっ!? 飛んだっ!!」

 ゴキブリが部屋中を縦横無尽に飛び始めた!!

 一匹二匹ならどうにかできるけど、これだけいると無理だっ!!

「か、佳奈多さん、に、逃げようっ!!」

 佳奈多さんのほうを見ると。

「…………」

 呆然とした表情で、床にペタリと座り込んでいた。

「佳奈多さん、どうしたのさ! 早くこの部屋を出よう!」

「…な、直枝…」

「早くっ」

「な、なおえ……っ」

 僕がドアに向かうけど佳奈多さんが床に座ったまま動かない!

「佳奈多さん、どうしたのさっ!?」

「こ…っ」

 半分涙を浮かべ、すがるような瞳が僕に向けられた。

「こ…こ…腰が抜けたみたい…」

「ええぇぇーーーっ!?」

「わ、悪いけど…わ、私を、た、立たせて」

「うんっ」

 佳奈多さんが必死に僕に両手を差し出したときだ。

 

――ブーーーンッ、カキョッ。

 

 佳奈多さんの目の前を羽ばたくゴキブリが通過し、本棚に当たって下に落ちた!

「ゃぁっ!?」

 まるで電撃を浴びたようにビクッと仰け反った!

「なな、なな、なおえっなおえっ!」

 もう涙声になってしまっている!

「は、は、はやくっ! わたしダメなのっ! もうだめムリ! なおえっ、おねがいっ、なおえぇ」

 よっぽど怖いみたいだ。

 佳奈多さんは動かなくなってしまっている下半身はペタンと床に落とし、僕の名前を一生懸命に呼び、両手を必死にパタパタしているっ!

「僕の背中につかまってっ!!」

 佳奈多さんの前に屈み、僕の背に誘導する!

 すぐに佳奈多さんが力いっぱい僕にしがみついてきた!

 本当にゴキブリが苦手みたいだ。

 佳奈多さんは体全体を僕の背中に、これ以上無理と言うくらいギュウギュウに押し付けてくる。

 背中全体に熱さが伝わる。

 その体は小刻みに体が震えている。

 うん……僕が守ってあげなきゃ!

「いくよっ!」

 ゴキブリが飛び交う中、僕はドアへと駆け抜けた!

 

 

――10分後。

 僕たちは再び寮の前に集合していた。

「ふえええっ!? ゴキさんが出たのですかっ!?」

「こっくるぉーちですかっ!?」

「そうなんだ」

「んで、そいつらを女子寮に解き放っちゃったの!?」

「ううん」

「扉を開けたのは一瞬だけだったから、まだ全部娯楽室にいると思う」

 やっぱりみんなゴキブリは苦手なのか、顔面蒼白だ。

「これからどうしよう?」

「うみゅ…あそこが使えないと、年末の番組が見れないぞ」

「由々しき事態だね、こりゃ」

「――私に考えがあるわ」

 さっきまで心ここにあらずといった様子だった佳奈多さんが立ち上がった。

「佳奈多さん、大丈夫?」

「……っ、大丈夫よ」

 ちなみに僕はさっきの佳奈多さんの様子は他言無用、さらに記憶から抹消しろと強く言われてしまった…。

「かなちゃんに考えがあるなら、任せれば安心だね~」

「ええ、任せてくれて問題ないわ」

 携帯電話を取り出した。

 

――プルプルプルー、ガチャ。

 

「ブレイク工業ですか? はい…はい……女子寮一軒です。そうです。爆破解体でお願いします」

「って、ダメだからぁぁぁーーーっ!!」

「奴らを抹消するためには女子寮ごと処理するしかないわ!!」

 問題だらけだった!!

「あ、そうだ」

 鈴が何かを思いついたようにポンと手を叩いた。

「りんちゃん、何かいいアイディアがあるの?」

「うん」

「かなり前の話だが、馬鹿兄貴からバルサンをもらっていたのを思い出した」

「バルサンとはなんでしょう?」

 首を傾げるクド。

「バルサンっていうのは、殺虫剤の部屋全体バージョンかな。殺虫効果がある煙が噴き出して部屋中くまなく虫を駆除できるんだ」

「わふーっ!? そんな広範囲兵器があったのですかっ!?」

「ちなみに馬鹿兄貴が改造して、リモコン操作でリモート噴射できるようになっているぞ」

「うわ…またどうでもいい機能つけたね…」

「なんだー、ならそれで解決じゃん」

 葉留佳さんが大きく息を吐き出した。

「……それで」

 佳奈多さんが口を開いた。

「誰がバルサン本体を、あのゴキブリが大量にうごめく部屋に置いてくるの?」

「「「「う……っ」」」」

 根本的なところを忘れていた!

 みんなで顔を見合わせたときだ。

 

「――ん? おまえら集まって何をしてるんだ?」

 買い物帰りの恭介が、まるで天使に見えたのは言うまでもない。

 

 

「なんだなんだ、押すなって」

 みんなで恭介の後ろに隠れるように、女子寮の娯楽室へと続く廊下を歩く。

「恭介さん、死なないでくださいっ」

「あたしに勇敢な兄貴がいたことを一生忘れない」

「おいおい、ゴキブリくらいで大げさだろ」

「大げさではありません。少なくとも私は死を覚悟しましたから」

「さすがにアレは怖かったよね…」

 程なくして、娯楽室の扉の前に着いた。

「着いたぜ」

「着いちゃったね…」

 まるで妖気が発散されているかのように見える!

 

――ゴクリっ

 

 どこからともなく生唾を飲み込む音が聞こえてきた。

「よろしくお願いします、棗先輩」

「ははっ、任せておけって」

 バルサンを手でクルクルともてあそぶ恭介。

 まるで兵士を戦地に送り込むような気持ちだ…。

 恭介がドアノブに手を掛けた。

「行ってくる!」

 全員が無言で頷いた。

 

 ドアが開かれ、恭介が部屋の中に滑り込んだ!

 

「――設置完了だ」

 すぐに部屋の中から恭介の頼もしい声。

「ほっ……棗先輩、脱出を」

「ああ」

「恭介さん、こっちこっちーっ」

 小毬さんが恭介が出られるようにドアを開けた瞬間だ!

 

――ブーーーンッ!!

 

「ほわぁぁぁぁっ!? ゴキさんがこっち飛んで来たぁーっ!!」

「ドアを閉めてっ、いそいでッ!!」

 佳奈多さんから電光石火の指示が飛ぶ!

「えいっ!」

「おい、ちょ――」

 

――バタムッ!!

 娯楽室のドアが閉められた!

 

「全員でドアを押さえる!」

 佳奈多さんの指示と共に全員がドアを押さえつけた!

 中からドンドンとドアを叩く音!

 『出してくれっ!』

「……それは出来ません」

 『なんでだよっ』

「棗先輩と一緒に奴らも外に解き放つという最悪のケースが考えられます」

 『それ、どういうことだよっ!? うおっ、ゴキブリが服にくっつきやがった!』

「棗さん」

 恭介の問いには答えずに、鈴を見る佳奈多さん。

「リモコンを」

「ん」

 リモコンを受け取った。

「佳奈多さん、まさか…!?」

「……」

 佳奈多さんは何も言わずにリモコンを見つめている。

 そして意を決したように顔を上げた。

「あなたたち、棗先輩に一言を」

 

「恭介さん…お星様になっても私たちを見守っていてください」

「恭介さんの分まで長生きしますっ」

「恭介くんは永久に女子寮で語り継がれますヨっ!」

「…馬鹿兄貴、馬鹿ながらに最後は人の役に立てたな…」

 

 『ちょっと待てっ!! 出してく――』

――ポチ。

 無常にもスイッチが押された!

 同時に中からボシュ~~~と音がっ!!

 『ぐはっ!? 出してくれ、ひぃぃぃぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!』

 暮れの大空に、大きな絶叫が木霊した……。

 

 

 こうして女子寮の平和は守られた。

 ちなみに救出された恭介は数日間は体が殺虫剤臭かったので、歩く駆除兵器として女子に引っ張りダコにされたという。