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SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

Traffic Jam Products

88.バレンタイン狂想曲 ~ササミ・ギア~

 

 

 

 #シチュ:佐々美が理樹の机にこっそりとチョコを忍ばせにやってきました。

 

 

――2月14日、バレンタインデー。早朝。

 

「誰も…いませんわね?」

 誰もいない教室にわざわざ声をかけて入る。

 朝の早い時間帯。

 さすがにこの時間だと教室に誰もいない。

 

「直枝さんの机は……えーっと」

 いつもグラウンドやら廊下ばかりで会ってましたから、机の位置がはっきりとしませんわ…。

 たしか窓際近くだと思いましたけど。

「あ、ここですわね」

 ガタリとイスを引く。

 ……。

「と、投入しますわよ…」

 ……。

 生唾を飲み込む。

 き、緊張しますわね…ただチョコを入れるだけなのにっ!

 ……。

 きょろきょろ

 ……。

 ……。

 きょろきょろ

 ……。

 

 スッ!!

 

 0.1秒でチョコを机に滑り込ませた。

 や…。

 やりましたわっ!! 入りましたわっ!!

「ふっ……」

「ふっふっふっふ……おーっほっほっほっほ!」

 これでもうあの方のお気持ちはガッチリキャッチに違いありませんことよっ!

 

 このチョコはわたくしが気合いを入れて作った特別製。

 腕によりをかけたラッピングを外して箱を開けると、最初に目に飛び込んでくるのは大きなハート。

 そしてそのハートには。

 

 『心より愛しております。S.S』

 

 とホワイトチョコで書いてあるのですわっ!!

 それを見た直枝さんはこう言いますの。

 『S.S…このイニシャルは笹瀬川さんっ! 笹瀬川さんはどこ!?』

 辺りを必死に見回す直枝さん!

 そこでドアからこっそりと顔を覗かせるわたくしを見つけますの。

 目と目が合う二人!

 ですが、ここで出て行ってしまっては元も子もありませんわ…。

 あえてここで頬を染め背を向け駆け出すわたくし!

 『笹瀬川さんっ、待って!!』

 わたくしを追う直枝さん!

 ここでわたくしの100m12秒フラットの足を出すのは厳禁。

 じわじわと縮まる二人の距離。

 そして直枝さんの手がわたくしの肩に!

 『あ……』

 振り向くわたくし!

 息を荒げた直枝さんがこう言いますの…。

 『はぁはぁはぁ…笹瀬川さん…ううん、佐々美……僕も前々から……』

 『直枝さん……』

 『違うよ』

 ちょん、とわたくしの唇に彼の人差し指が付けられる!

 『僕も佐々美のことを名前で呼ぶから、佐々美も僕のことは名前で呼んで』

 『うん……理樹……』

 『佐々美』

 『理樹っ』

 『佐々美っ』

 『理樹ーっ!』

 『佐々美ーっ!』

 

 き…!!

 きゃぁぁぁぁーーーっっっ!!

 たっ、たっ、たっ、堪りませんわぁぁぁーーーっ!!

 

 …………。

 ……。

「はぁ…はぁ…はぁ…ふう」

「後は直枝さんが来るのを廊下の影で待ち伏せして…」

 そのとき。

 

「――真人さ、どうすれば宿題になった教科だけをきれいに学校に忘れるのさ…」

「いやよ、拒絶反応が……つーか、なんで女性陣全員までこんなに早いんだよ?」

「ふええぇ、そ、それはね…」

「やはは…たまたまっていうか…ねぇお姉ちゃん」

「え!? そうね、た、たまたまよ」

「たまたまだそうだ、理樹」

「うわわっ、恭介っ、頭くしゃくしゃしないでよーっ」

 

 こ、この声は直枝さんとその他面々の声っ!?

 

「……?」

「どうしたの、西園さん?」

「……どなたか教室にいる気が」

 

 

 ま、まずいっ!!

 足音から察すると、もう直枝さんたちは教室の手前まで来ている!

「こんな朝早くにくるなんて物好きなヤツもいるもんだな」

 この声は、棗鈴!

 棗鈴にわたくしの今の行動を見られたら何を言われることか……!

 

 辺りを見回していると掃除用具入れが。

 ここしかありませんわね…。

 慌ててわたくしは掃除用具入れへと身を隠した。

 

 

「なんだ? 誰もいないぞ、みお」

「……わたしの勘違いだったようです」

 

 はぁ…。

 暗い掃除用具入れの中で一息つく。

 なんとか間に合いましたわね…。

 

 掃除用具の隙間から見ていると、朝練の宮沢さん以外のリトルバスターズ全員が揃っていた。

「教室に一番乗りっていうのも気持ちいいものだね」

「これで授業がなきゃ最高なんだけどよぉ」

 直枝さんが机に近づいてくる。

 

 わたくしのチョコ……。

 直枝さん、わたくしの愛が詰まったチョコを是非受け取ってくださいませーっ!!

 

「――あれ?」

「どうしたの、真人?」

「お…おおお……おおおおお……」

「お…って、どうしたの?」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「?」

「理樹、やべぇ…やべぇ」

「なにが?」

「オレの机に……」

「机に?」

 

「チョコが入ってんぞぉぉぉーっ!!」

 

 え?

 隙間から覗くと、筋肉馬鹿がわたくしのチョコを掲げている。

 ……わたくしのチョコ?

 わたくしの、チョコーーーっ!?

 

 ま…!

 ままま……!

 間違えましたわぁぁぁーーーっ!!

 

「「「「「「ええええええええええええええええええええ!!!!!」」」」」」

 まるで3億円が当たったかのような絶叫が教室を振動させた!

 

「ふえぇぇぇーーーっ、真人君についにスプリングさんが来ちゃったよーっ!」

 目を真ん丸にしている神北さん。

「わふーーーっ、い、井ノ原さんにチョコですかっ!? 私はどうしたらいいのですかっ!?」

 能美さんは顔を赤くしたり青くしたりと錯乱中。

「なんていうか、キモイな」

 興味なしといった棗鈴。

「ひえぇぇ…衝撃映像を目撃してしまった」

 2本お下げの子はまるでUMAをみたような顔。

「ば、バカな!? 真人少年のくせにチョコだとっ!?」

「……来ヶ谷さん、お気を確かに。きっと何かの間違いです」

 来ヶ谷さんにいたっては西園さんに支えられてやっとの思いで立っている。

「はぁぁぁ!? いや……はぁぁぁー!?」

「いやいやいや、恭介もそこまで驚くこともないでしょっ」

 チョコを2度見したあとに絶叫している棗兄と、ツッコミを入れている直枝さん。

 

 教室は阿鼻叫喚に包まれていた!

 

「落ち着きなさい!」

 風紀委の二木さんの声が響きわたる。

「けどお姉ちゃん! これが落ち着いてられるわけないじゃん!!」

「安心して」

 ふぁさ、と長い髪を払う。

「この事件は風紀委員委員長・二木佳奈多が究明するわ」

「踏み間違えた道を正す、それが私たち風紀委の仕事」

「こんなことをする女生徒は、見つけ出してきちんと指導しないと」

「非行みたいに言うんじゃねぇえぇえぇーーーっ!!」

 ぶちぶちぶち…!

「うわぁ、あまりの屈辱に真人が自分の髪の毛を自ら引き千切ってる…!」

 

 こっ…。

 これはどうすればいいんですの!?

 ここで今わたくしが出て行って、あの筋肉馬鹿からチョコを取り上げたら間違いなく勘違いされてしまいますわっ!!

 

「……では、誰からか究明するためにもそれを開けてください」

「仕方ねぇな、見たいなら見たいって言えよっ」

「うわ…真人、活き活きしてるね…」

「こいつもう、うかれポンチだな」

 

 え!?

 そ、それは困りますわっ!!

 飛び出そうにも、今飛び出すとマズイ!

 

 願い空しく、綺麗なラッピングが豪快に引き裂かれた。

「「「「「「「あ……」」」」」」」

 

 ひぃやぁぁぁーーーっ!

 み、見ないでーーーっ!!

 顔から火が出るほど熱くなっていく!

 もう出るに出られませんわーっ!!

 

「見事なハートですネ…」

「ハートね…」

「『心より愛してます』……ふむ、幻覚か…幻覚だ…幻覚に決まっている…」

「……来ヶ谷さん、お気を確かに。何かの間違いです」

「これでもかと言わんばかりに愛が込められているじゃないか」

「真人、よかったね」

「へっ、これも日頃の筋肉が良かったおかげだなっ!」

「うわっ、こいつ鼻の下が5センチくらい伸びたぞっ」

「犯人への糸口は、この『S.S』というイニシャルだけのようね」

 

 そ、そうでしたわっ!!

 あれにはわたくしのイニシャルが……っ!!

 

「S.S……うーん? どこかで見たような気がするよ~」

「コマリマックスの知り合いか?」

 神北さん、思い出さないで! 思い出すな!!

「えーっと…そうだっ」

「さかきばらスーザン?」

「だれなんだ、それは…?」

 ふぅ…。

 彼女が天然で助かりましたわ…。

「あっ!」

 棗鈴が反応した!

「馬鹿兄貴、あいつじゃないか?」

「あいつ? ああ」

 お、思い出さないでっ! お願いですから思い出さないでくださるっ!!

「恭介、あいつって?」

「この前就活に行ったろ? そのときに軍事施設に間違って入っちまってな」

「その時に世話になった方だ」

 ほっ…。

 どうやら違う人のようですわね…。

「彼は基本的にはヒゲの似合う紳士なんだが、趣味はかくれんぼというお茶目さも兼ね備えた方だった」

「その方の名前が――」

 

「ソリッド・スネークだ」

 

「それ男じゃねぇかよぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉぉぉーーーっ!!」

 井ノ原が泣きながら仰け反った!

「あのスネークさんからハートのチョコを頂けるなんてさすが井ノ原さんなのですっ」

「うれしくねぇよっ!」

「なんだ、真人少年は男からチョコをもらったのか? えんがちょだな」

「ふえぇ、えんがちょ」

「えんがちょって言うなぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁぁーーーっ!!」

「他になんて言うんだっけ、こーゆーのって?」

「……ガチムチです……ぽ」

「なるほど、ガチムチですナ。真人くんのガチムチー! うっわ、ガチムチーガチムチー」

「わふーガチムチなのです~っ!」

「ふえぇ、ガチムチ」

「ガチムチ、あたしに寄るな」

「ガチムチって言うんじゃねぇえぇえぇえぇえぇえぇーーーっ!!」

 ぶちぶちぶち…!

 井ノ原が転げまわりながら髪の毛をむしっている!

「うわぁ、真人禿げるよっ!?」

「ふぅ…犯人は男で決定。井ノ原らしいオチね。良かったじゃない」

「ちっともよくねぇよっ!!」

 

 くっ…!

 悔しいですけど、このまま勘違いした方向で行けば問題ありませんわ…!

 後は、この話が収束してみんなが散った後に何食わぬ顔で脱出すれば……。

 

「……」

「恭介、何をきょろきょろしてるの?」

「いやな、相手がかくれんぼ好きなスネークさんなら、どこかに隠れて監視しているんじゃないかと思ってな」

「……それでしたらロッカーや掃除用具入れのような物が怪しいかと」

 

 気を抜いていたのがマズかった。

 突然、掃除用具入れの戸が引かれ…。

「え!? きゃっ!?」

 わたくしの体が外へと飛び出した!

 

「ん…? なっ!?」

 棗鈴と目が合った。

「さささささささみっ!!」

「笹瀬川佐々美ですわっ!!――――……って」

 

 ……………………………………。

 みんなから「なんだコイツ?」と言わんばかりの目線がわたくしに向けられている!

 

「笹瀬川…佐々美…笹瀬川……佐々美」

 腕を組みわたくしの名前を口にする二木さん。

「イニシャルは『S.S』ね」

「わ、わたくしはただ、たまたま居合わせただけで……」

「……居合わせただけですか。掃除用具入れの中に」

「そ、そうですわ」

 自然と目が井ノ原の手にあるチョコに向いてしまう。

「……今、明らかに井ノ原さんを見て頬を染めましたね?」

「へ!?」

「わ、ホントだ。さーちゃんのお顔まっか」

「ちっ、違いますわっ!! 誰があんな筋肉馬鹿を見なきゃならないんですのっ!?」

「笹瀬川、そういうのをなんていうか知ってるか?」

「知りませんわっ!」

「ナイス・ツンデレっ!」

 白い歯を光らせ親指を立てる棗兄!

「ハァ!? ち・が・い・ま・す・わ・よッ!!」

「わふーっ、これが俗に言うツンデレなのですかーっ!!」

「だから違うって言ってますでしょうにっ!?」

「このこの~、照れなくてもいいゾ~」

「んがぁーーーっ!!! 違うって言ってるでしょうがっ!!」

「わたくしが見ていたのは筋肉馬鹿じゃなく、そのチョコですわっ!!」

 井ノ原が大事そうに抱えているチョコを指差す!

「また随分と手の込んだチョコを作ったものだな。苦労したのではないか?」

「そうですわ、それを作るのに3時間も……………」

「……」

「……」

「……」

「……」

「………あ。」

 

「……マジかよ……」

 井ノ原が、無駄に頬を桜色に染めていた!!

 

「ヒィィィィィィャァァァァァァァァァァァァーーーー!!」

 頭を抱え仰け反る!

「違う! 違いますわ!! ホント違ってそういう意味じゃなくてわたくしはただ」

「おまえの気持ち、確かに受け取ったぜ!」

「受け取んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」

 

――ズゲシィッ!!

 

「ゲフンッ!?」

 蹴りが華麗に井ノ原にヒット!

「いいですこと!! そのチョコは――」

 

 

「まるで夫婦漫才みたいだな」

 ボソリと棗鈴が呟いた。

 

 

 …………。

 ……。

「きゃぁぁぁぁ~~~っ! さーちゃんと真人君、もう夫婦にしか見えないよーっ」

 目をキラキラさせながら飛び込んでくる神北さん!

「ええ、とってもお似合いよ、あなたたち。おめでとう」

 二木さんは嬉しそうに拍手を送ってきている!

「真人のいいところを見抜けるなんて、さすが笹瀬川さんだね」

 あああっ!? 直枝さんまで勘違いなさっていますわっ!!

「へっ、どうやら恋人を通り越して夫婦になっちまったみたいだな」

 井ノ原が…。

 熱視線をわたくしに向けた井ノ原が……!

 両手を広げてわたくしの方へと歩み寄ってくるっ!!

「ハァハァハァ……笹瀬川……うんや、佐々美……実はオレも前々から……」

「ひ…」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

 わたくしは100m12秒フラットの足をフルに使い、その場を逃げ出したのだった……。