SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

Traffic Jam Products

72.届かぬ想い、届けられぬ想い、楔深く

#シチュ:葉留佳と理樹は仲良し(けど、付き合ってはいない)なのです。いつも一緒にいる佳奈多も実は……。

 

 

――昼休み。

 近頃は、葉留佳さんたちの教室で3人で机を囲んでお弁当を食べるのが恒例だ。

 ちなみに葉留佳さんは僕とぴったり横に座っていて、佳奈多さんはもう一つ机をくっつけて葉留佳さんの向かいに座っている。

「理樹くん、理樹くん、これドーゾ」

「マフィンだね、ありがと」

 もらったマフィンを口に運ぶ。

「どうかな?」

 ふわりとしたチョコレート生地が舌の上で溶ける。

「うん、とっても美味しいよ」

「うわ~い、美味しいって言われちゃったーっ」

「えへへ、お姉ちゃん、私理樹くんに褒められちゃった」

「うわわっ、ちょ、ちょっと葉留佳さんっ! 腕に抱きつかないでよーっ」

「いいじゃんいいじゃん、別にー」

「ゆ、揺らさないでよっ。あ、ほら机の中の筆箱が落ちちゃったし」

「葉留佳」

 はぁ、と佳奈多さんの溜息。

「食事中に行儀が悪いわ。いちゃいちゃするなら食事の後」

「いちゃいちゃなんてしてないからーっ!」「いちゃいちゃなんてしてないーっ!」

 見事にハモってしまい、葉留佳さんと顔を見合わせる。

「「……」」

「はいはい、わかったからご飯を食べましょう」

 佳奈多さんはいつものように、僕ら二人に呆れたようなお姉さんのような笑みを漏らす。

「んじゃ、理樹くんあーん」

「だからっダメだってーっ!」

「ちぇーちぇーちぇー」

「…………」

「あれ、お姉ちゃんどーしたの? 汚いなー、お豆落としてるよ」

「――………………え?」

「だから、ハンカチの上。落としてますヨ」

「あ……やだ! あーもう、汚れちゃったわね」

 落とした煮豆もティッシュにくるむ佳奈多さん。

 その顔はどこか寂しげだった。

 

――放課後。

 ポケットで携帯が振動した。

 開けると…。

 『FROM : 二木佳奈多

  あーちゃん先輩から買い物を頼まれた。

  もしよかったら、手伝って欲しい』

 ……いつもながらそっけないメールだなぁ。

 僕はOKのメールを返信した。

 時間を置かず『校門で待つ』(本当に本文はこれだけだった)とのレス。

 

 校門前に行くと、佳奈多さんが校門に寄りかかりながら待っていた。

 いつもなら葉留佳さんと一緒なのだが、今日は珍しいことに一人だ。

「ごめん、待たせちゃったよ…寒くなかった?」

 僕はマフラーをしてるからいいけど、佳奈多さんは学校指定のコートと手袋のみだ。

「冬なんだから寒いのは当たり前」

「じゃあ行きましょうか」

「あ、うん」

 スタスタと歩き出した佳奈多さんの横に並ぶ。

「葉留佳さんは今日は一緒じゃないんだ」

「……」

 一瞬の間の後。

「葉留佳は何か用事があるらしいわ」

 僕と目を合わせず、そう言った。

 

「――セロテープとガムテープ、それに画用紙と」

「これでメモにあるのは全部だね」

「ええ」

「そんなに大荷物にならなくてよかったよ」

「そ、そうね」

 僕たちは文房具店を後にした。

「こ、これからどうしようかしら?」

「もう用事もすんじゃったしね」

「あとは帰るか…………もしくはどこかに行く、なんて選択肢もあるわね」

 なぜか最後は吐き捨てるような言い方だ。

「佳奈多さんは他に行きたいところとかない?」

「別に…………あ、えっと」

 目に戸惑いの色が浮かぶ。

「ここまで来て直帰するのは非合理的ね、よく考えると」

「どこかによった方が時間の使い方としては合理的」

「なんでそんなぶっきらぼうなのさ…」

「いいじゃない、別に」

 ツンとそっぽ向く佳奈多さん。

 その顔は、嬉しさを無理に押し殺そうとしてる顔だった。

 

「いらっしゃいませー」

 僕らが軒をくぐったのはレディースファッションのショップだ。

「へぇ…てっきり佳奈多さんって」

「なに?」

 ギロリと睨まれる。

「な、なんでもない」

 あまりオシャレとかに興味ないかと思ってた…。

 

「…えーっと、白…かしら……ボーダーなんてのもありか…」

 一生懸命棚の前で悩んでいる佳奈多さん。

 学校じゃ絶対に見れない佳奈多さんだよね。

「…うーん…」

 口に人差し指を当てながら悩んでいる様子が可愛らしい。

 ……なんて言ったら、きっと酷い目に遭うと思う。

「ね、直枝」

「どうしたの」

 手招きをしている佳奈多さんに寄る。

「これ、どうかしら」

 佳奈多さんが黒と白のボーダーのセーターを体に当てている。

「とっても似合ってると思うよ」

「そう?」

 学校では――いや、みんなの前では絶対に見せることはない嬉しそうな笑顔が浮かぶ。

「……」

 そんな顔にドキリとしてしまった!

「どうしたの?」

「あ…いや」

「ならこれと」

 さらに横の棚に移動する。

「あと、これ」

 

――ぽふっ

 

 佳奈多さんが、ボンボン付きの可愛らしいファーの帽子を被る。

「どう?」

 温かい色が浮かんだ大きな瞳を僕に向け、嬉しそうに訊いてくる。

 いつもの大人っぽい様子からかけ離れた、子どもっぽい佳奈多さん。

「それも似合ってるよ」

「そう? ならこれも」

 そこにいるのは…。

 いつもの何かを押し殺し耐えている佳奈多さんではなく、素のままの佳奈多さんだった。

 

「今日は楽しかったね」

「そうね」

 二人ならんで歩いていた。

「葉留佳さんも来れれば良かったのにね」

「…………」

 買い物袋を抱きかかえた佳奈多さんが急に俯く。

「どうしたの?」

「なんでもない……」

「直枝」

 突然立ち止まる。

「?」

「私……」

 買い物袋を抱く手に力が込められる。

「私っ!」

 悲しげな色をした声が夜空に響く。

「え…」

 今にも涙がこぼれそうな瞳。

「……」

「……」

 重い沈黙が続く。

「……ごめんなさい、今のことは忘れて」

 小さく呟く佳奈多さん。

「佳奈多さん…?」

「今日は……ありがと……」

 蚊の鳴くほどの声。

 佳奈多さんは僕に背を向け夜の闇に駆けて行った…。

 

 

 #エピソード・佳奈多

 『あーちゃん先輩から買い物を頼まれた。手伝って欲しい』

 そこまでメールを打って手を止める。

 ……これだと強制っぽいわね。

 途中に『もしよかったら』の一語をいれ、送信。

 

 葉留佳が直枝のことを好きなのは火を見るより明らかだ。

 私はそれを見守っていこうと思っていた。

 だって自分さえ我慢すれば、きっと丸く収まる。

 けど……。

 胸が押しつぶされそうだった。

 二人が仲良くしているところを見ると、壊れそうになってしまうほど、つらかった。

 

 『FROM:直枝理樹

 うん、僕でよかったら手伝うよ。どこで待ち合わせしよう?』

 そのメールが帰ってきたとき、つい笑みがこぼれてしまう。

 嬉しかった。

 罪悪感を消し飛ばすほどに。

 

 何もかも忘れてしまうほど楽しい時間が過ぎる。

 一緒に服を選ぶ時間。

 たぶん、周りの人たちからは私と直枝がカップル同士に映っていると思う。

 直枝が近くにいて、私だけを見てくれている。

 胸が高鳴っているのがわかる。

 顔が赤らんでいるのがわかる。

 時間が止まってしまえばいい。

 この嬉しすぎる時間のまま固まってしまいたい…!

 

 帰り道。

「葉留佳さんも来れれば良かったのにね」

 その一言が私を射抜く。

 やっぱり葉留佳……なの?

 今一緒いるのは私!

 今は葉留佳はいない。

 だから今なら……。

「私っ!」

 本気で叫びたい。「あなたが好きです」と。

 あなたのその仕草、その笑顔を本気で愛してると。

 言葉が喉元まで上る。

 不意に。

 不意に脳裏にあの子の笑顔が浮かんだ。

 『やははー、理樹くんが喜ぶ顔が見たくてさ。マフィン美味しいっていつもたべてくれるじゃん』

 胸がズキリズキリと痛みだす。

 私は……私はなんてことをしてるの…?

 私の心に楔が打ち込まれる。

 

 私は重い重い罪悪感に堪えられなくなり、彼の元から逃げ出した。