僕は友達が少ないSS
『僕は友達が少ない』の紹介(?)用SSです。百合属性がある方のみご覧下さい。ある日、夜空がフェチがどうとか言い出して……。
夏休みの真っ只中、俺――羽瀬川小鷹(はせがわこだか)は聖クロニカ学園構内にある礼拝堂の一室、談話室4へ早足で向かっていた。
学校が休みなのにそこに向かうのは俺が生真面目な生徒だからではない。
どちらかというと、くすんだ金髪と鋭い目つきという見た目で不良に見間違われるほうが圧倒的に多いくらいだ。
もちろんこの見た目はハーフというだけであって、俺は不良ではなくむしろ善人だ。
自分ではそう思っているのだが、他の人はそうは思っておらず学校では浮きまくっている。
簡単に言うと……友達がいない。
そんな俺だが一応、部活には所属していたりする。
今向かっている場所は所属する『隣人部』の部室である。
早く冷房に当たりたいという気持ちで、礼拝堂の側面入口から中に入り、談話室4の扉を開ける。
「来たか」
最初に目に飛び込んできたのは、ソファに腰をかけ本を読んでいる三日月夜空(みかづきよぞら)だ。
誰もが目を奪われるような綺麗な黒髪に切れ長な目。容姿は美人としか形容ができない。
普段は仏頂面で全身から不機嫌オーラを放っている夜空だが、友達のトモちゃんと話すときは別人のようにいい笑顔を見せる。
トモちゃんというのは、夜空の脳内友達だ。
このように夜空は非常に残念な性格の持ち主である。
ちなみに友達がいない。
部室に入ると、もう一人いた。
パソコンの前でマウスを連打している金髪碧眼の美少女――柏崎星奈(かしわざきせな)。
すらっとした細身なのに胸は大きいというグラビアアイドルみたいなスタイルの持ち主で、ちょっとだけ目つきがキツいが顔立ちも整っており、どことなく気品が感じられる。
何かつぶやいているので耳を澄ましてみると、
「……佳奈多かわいいよ佳奈多……ハァハァ……」
ゲームキャラに鼻息を荒げていた。
このように外見は完璧だが、本気でゲームに入りたいと言うほどに中身はとても残念なことになっている。
ちなみに友達がいない。
他にもメンバーはいるのだが、これが俺たちの『隣人部』だ。
友達がいない人の、友達がいない人による、友達がいないひとのための残念な部活だ。
友達作りを活動目標としている。
部室で各々くつろぐこと1時間。
「ああ、そういえば」
ソファに座る夜空が本を閉じ唐突に話し始めた。
「フェチという言葉は知っているか?」
「……また唐突だな。やたらとマニアックな趣味、みたいな意味じゃないか?」
具体的な意味はわからないが、たしかこんな感じだったはずだ。
「昨日ネットで見たのだが、フェチが合う者同士は即友達になれるらしい」
「そういうこともあるのかもな。同じ趣味同士で気があって話が盛り上がるとか」
もちろんそんな話で盛り上がったことなんてないので俺にはわからないが、秘密の趣味を分かち合う者同士で気も合いそうだ。
「そこで私はフェチについて具体的に調べてきたのだ。いざフェチ話の時になって話せなかったら困るからな」
「ふーん、それで?」
さっきまでゲームをやっていた星奈が目を輝かせながら、夜空が座るソファの横にストンと腰をかけた。
べしっ。
夜空のデコピンがその鼻にヒットしていた。
「~~~~っ! あにふんのよっ!?」
「なんだ肉、私の横に無断で座った上に無償で私の話の続きが聞きたいなんて馴れ馴れしい」
この二人、相変わらず仲が悪い。
しかも星奈の呼び名は肉で定着してしまっているようだ。
「私が調べたところによると、どうやら女子に多いフェチは“鎖骨フェチ”だそうだ」
「男子は?」
俺がそう聞くと夜空は一瞬赤くなり、
「男子は……ち、乳だそうだ破廉恥め、死に絶えろ」
「なんで俺が睨まれた上にそこまで言われなきゃならないんだよ」
いやまあ、俺も男だからわからないこともない。
けど鎖骨フェチはどうなんだ?
さすがに何がいいのか全くわからない。
「鎖骨フェチって、鎖骨のどの辺がいいのよ?」
星奈も俺と同じなのか、眉をひそめ首をかしげている。
「私が見たサイトでは『触るとコリコリしててもう辛抱堪らん』と書いていた。だが、私も鎖骨の何がいいのかちっとも理解できない。そもそも人の鎖骨なんて触ったこともないからな」
「自分の鎖骨だって触らないわよ。まさにフェチって奴ね。理解不能よ」
星奈が呆れたとばかりに嘆息する。
「もしかしたら……」
夜空が静かにつぶやいた。
「それを理解できないからこそ私たちには友達ができないんじゃないのか?」
「え、うそっ!?」
「だから、友達作りのためにも鎖骨の良さとやらを知っておく必要がある」
「どうやってだよ?」
俺が質問すると、夜空の顔が目に見えて赤くなった。
「そ、それは……鎖骨をだな……」
俺の胸元に一瞬目を向けた夜空だったが、すぐに逸らした。
「おい肉」
「何よ?」
「お前の鎖骨を出せ、見せろ」
「ハァ!? 嫌よ、なんでそんなとこ見せなきゃならないのよ?」
「ほう?」
夜空の口元が意地悪く歪んだ。
「自信がないのだな、自分の体に。やはり肉だけあって鎖骨も肉に埋もれてるのか。人様に見せるのが恥かしいからキャミソールも着れないのだな。あぁ可哀相にぷっ」
「ハァ!? どこからどうみても完璧で神様のオーダーメイドとしか思えない造形美のこの私に向かって何言ってるわけ!?」
「あーイタイイタイ。自分をそこまで祭り上げられるのも一種の才能だな」
「いいわよ、見せつけてやるわ!」
言うや否や、星奈はソファに腰を掛けたままポチポチとブラウスのボタンを開け始めた。
第三ボタンまで外し、
「ふふん、どう?」
バッとブラウスの胸元を広げ、自慢げに鎖骨を夜空に見せ付けていた。
……たしかに星奈の肌は衣のような白さで、そこにポッコリと骨が浮き出ている様は……くるものがある。
「む…どれ」
夜空がその鎖骨に指で触れた。
「ひゃうっ!?」
ビクッと跳ね上がる星奈。
「な、なっ、なに触ってるのよ!?」
「鎖骨の何がいいのかわからないから触ったのだ。それとも何か? 貴様は触られたら困ることでもあるのか? 塗装が剥げるとか」
「あるわけないじゃない! そう思うなら思う存分触って確かめてみなさいよ!」
ソファに座る星奈がグイと胸元を夜空に向けて差し出した。
「なら肉、私が言いというまで絶対に何があっても動くな。動いたらお前の負けだ」
「ふん、受けて立つわ」
あーあ、挑発に乗っちゃった。
返事に満足したのか、夜空は口元を上げ星奈の鎖骨に自分の中指を添えた。
「ゃっ!?」
逃れようと身をよじった星奈だが、
「動くな」
夜空の恫喝で動きを止めた。
「それと声も立てるな。いいな?」
「…!」
キッと口を結ぶ星奈。
「どれどれ……」
くりくりっ、くりくりっ。
ソファに座る星奈に夜空が身を寄せ、指先で星奈の鎖骨をもてあそぶ。
「ほう?」
くりっくりっ、コリコリ。
「んっ…」
「声を立てるなと言ったはずなんだが?」
その目には嗜虐的な妖しい光が灯っている。
「こうやって遊ぶのはどうだ?」
コリコリっ、コリコリっ、くりっ
「……っ、……っ!」
星奈はブラウスの襟元を両手で開けたまま鎖骨を夜空に向け、目をギュッと閉じてその攻撃に懸命に耐えている。
頬には朱が差し始めている。
「ほう、この感触が何とも言えないな…」
「…っ…っ……ぁぅ」
なぜか二人とも頬が桜色だ。
「ん? なんだお前、顔が赤くはないか?」
意地悪に鎖骨をくりくりといじりながら耳元で夜空が囁いた。
「…っ! んんっ」
ビクッと星奈は体を震わせ、キュッと目を閉じたままフルフルと首を降った。
「ふん……次はなぞってみるとするか……」
「……ん」
星奈が静かにコクリと頷く。
ツツツ~~~~。
「……っ!」
くにくに、ツツ、ツツツ~~~。
「……ぅ……ぁ」
星奈から熱い吐息が漏れる。
唐突にピタリと夜空がその動きを止め、指を星奈の鎖骨から離した。
今までくっつくほどに寄り添っていた体も離れる。
「…………?」
頬を桜色にした星奈が恐る恐る目を開けた。
「……ぅ?」
チラ、チラと何かを待っているような瞳で夜空を見やる。
もう夜空が手を離しているのに、鎖骨を夜空に向けたまま動こうとしない。
「ふぅ、そろそろやめにするか」
夜空が意地悪そうに口を開け言い放った。
「…っ!」
驚いたような顔。
「なんだ肉? もっとして欲しそうな顔だな」
「な……っ!? そそそそそそんな、わ、わわわ訳ないじゃないっ!!! バカじゃない!?」
顔を真っ赤にして、わたふたと胸元のボタンを閉め始めた!
「あー気持ち悪いっ! よ、夜空なんかに触られて、えと、と、鳥肌が立っちゃったわ!!」
「なんなら」
ぼそりと夜空がつぶやいた。
「もう一回やるか?」
「え…………」
ピタリと星奈がとまった。
「無論、嘘だが。なんだ貴様そのマヌケ面は」
「……~~~~~~~~っ!!」
星奈の顔がゆでダコのように赤くなっていく。
ソファから乱暴に立ち上がると、そのまま脱兎の如く出口へ駆け出した。
「夜空のバカアホクソ、オタンコナスーーーーッ!!」
泣きながら小学生のような悪口を叫び、星奈はどこかへと走り去っていってしまった。
「というか……」
「なんだ、小鷹?」
「頼むからそういうことは俺がいないところでしてくれ……」
「多少反省はしている」
目を離せなかったのは……もちろん内緒だ。