#シチュ:冬も近づいた季節。夜店が軒を連ねる境内。理樹と古式さんの二人でお出かけです。
「――あっ」
古式さんが構えたポイに穴があき、金魚が水中へと逃げる。
「逃げられましたね」
「残念だったね」
「一匹になってしまうより、仲間と一緒にいた方が良かったのでしょう」
言いながら、手に持つポイを店の人に返す。
「もういいの?」
「はい」
金魚すくいのプールの前から立ち上がる彼女は、笑顔だった。
――いつからだろう?
彼女と初めて会った時の印象は、笑わない人、だった。
彼女の笑顔が見たい、それが最初の切っ掛けだったんだと思う。
次第に彼女と一緒にいることが多くなった。
今日は何があったとか、リトルバスターズのみんなの話とか、そんななんでもない話ばかりだったけど、彼女は静かに僕の言葉に耳を傾けていた。
そんな日々を続けているうちに、一方通行だった話は会話へと成長していた。
彼女の、今日はこんな本を読みました、魚料理が好きなんです、そんな日常の話を聞くのが何よりの楽しみになっていた。
彼女の笑顔が僕に向けられた日、ようやく気付いた。
ああ、僕は古式さんが好きなんだ。
「――直枝さん、これ、似合ってますか?」
出店に出ているビーズアクセサリーを細い指に通し、僕の方へ手を差し出す。
「うん、シンプルで古式さんらしいよ」
「それは私が地味と言うことですか?」
「え!? あ、いやいやいやっ! そういう意味じゃなくてっ」
「ごめんなさい、冗談です」
クスリと笑う様子が、僕の心を打つ。
――いつからだろう?
古式さんは僕の部屋にもよく寄るようになった。
茶菓子のお裾分け、そんな感じのが多かったと思う。
同じ部屋で、話をして、お菓子を食べる。
それだけで僕は嬉しくて溶けてしまいそうだった。
何より、彼女の笑顔が好きだった。
こんな日々が続くと思っていたんだ。
ある日彼女が言った。
「直枝さんだから話すんです」
今でもあの時の声、仕草を鮮明に思い出せる。
「私……宮沢さんのことが好きなんです」
出店を外れ、夜の境内の裏手へと足を運ぶ。
「――綺麗ですね」
「うん、ここからは街が一望できるんだ」
「直枝さん」
「どうしたの?」
「ほら、上を見てください」
「オリオン座です」
月光を浴び、夜空を見上げる彼女は……綺麗だった。
――いつからだろう?
彼女と一緒にいるのがつらくなった。
恋をして綺麗になっていく彼女を見たくないから、もう会いたくない…。
なんて言えない。
だって逢いたいから。
コツリ、と古式さんの頭に僕のおでこをつける。
「直枝さん? どうしたのですか?」
「……少し、このままでいてもいいかな」
「…構いません」
もう目も見れない…その瞳に何が映っているのか知るのが怖すぎて。
今この瞬間を彼女といるのは嘘じゃないのに
涙が頬を伝う。
「直枝さん?」
ああ、
何も変わらない、何も届かない。
「あの、直枝さん?」
きっとこれからも…。
「な…おえ…さん?」
振り向いた古式さんの大きな瞳が困惑に染まっていた。
「ううん、なんでもない、なんでもないよ」
僕は今、上手く笑えているだろうか?
「そう…ですか」
お願い、そんな悲しそうな顔を見せないで…。
「あ、ほら、そんな悲しそうな顔しないでよ」
「やっぱり笑顔が一番だよっ」
「そうですね」
僕が笑うと、彼女もつられて笑う。
彼女があまりに綺麗に笑うものだから、僕は…僕は涙をこらえることが出来なかった。
以上です!
片思い、本当につらいですよね。
今回は自分の過去を元に、リアリティを出して書いてますw
気持ちを伝えることも出来ず、想いを募らせる片思い。
出会いから恋わずらいまでの過程でございます。
恐らくみなさんもこんな苦い片思いを経験したことがあるのでは?
今回の小ネタのアウトフレームは「逢いたいから」という曲と「有心論」からですw