#では、こんなベタなシチュエーションはいかがでしょう?
――ここは寮長室。
佳奈多さんと二人並んで、いつものように書類を書いている。
「直枝…あなた、まだ半分も終わってないじゃない」
「ご、ごめん」
「謝る前にテキパキと手を動かしたらどう?」
「ごめ…あっ」
「……はぁ、呆れて何も言えない」
僕から興味を失ったように作業に戻る佳奈多さん。
佳奈多さんが仕事速いだけ…なんて言い訳をしたら何と言われるかわかったものじゃない。
部屋にはペンを走らせる音だけが聞えている。
「あ…」
――ころん。ころころ…。
「?」
佳奈多さんの消しゴムが足元に転がってきた。
僕は反射的にそれを取ろうと手を伸ばす。
――ぺとっ
あれれ?
消しゴムとは違う…温かいものに手が触れた。
僕の手の先には…
「あ…っ」
佳奈多さんの手。
僕の手は、佳奈多さんの手の上に添えられていて…
「……――」
佳奈多さんは驚いたような表情で僕の顔を見て停止しているっ!
ど、どうしようっ!?
「………………」
佳奈多さんの頬がうっすらと桜色に色づいている…。
ぼ、僕も顔が…っ!
「……」
温もりだけが手から伝わってくる。
恐らく数秒だと思うけど…まるで何分もそうしているかのように感じられる。
「……」
佳奈多さんがゆっくりと目を僕から背けた。
「…ご、ごめん…」
手をどけようとした時。
――僕の指先に
佳奈多さんの指が…。
「…え?」
「…………………………」
佳奈多さんは桜色に染まった顔を僕から背け…けれどその指は、僕の指先を愛おしそうに撫でている。
「……」
僕も佳奈多さんの指先に反応を返す。
その反応に佳奈多さんが真っ赤になって俯くが、指先だけは僕の指に絡んでくる。
そして、二人の指と指が絡み…。
――ガラガラガラ~!!
「ただいまーっ! 二人とも私がいない間寂しくなかったかなーっ?」
――ドタンバタンドタバタガターンバタンッ!!!
僕は飛び上がり、書類は宙を舞い、佳奈多さんに至ってはイスから転げ落ちた!!
「…はぁ、はぁ、はぁ…!」
「…ハァ、ハァ、ハァ…!」
二人とも胸を押さえて、呼吸を整えようと必死だ!
「ど、どーしたの二人とも?」
「だだだ大丈夫ですっっっ!!!!」
「二木さん、そ、そんな大声ださなくても聞えるから…」
寮長の不思議そうな目が…痛かった…。
はい、よくある消しゴムイベント(命名:m)でございますw