SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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27.沙耶、雨、

 

 

 

 

「うあ…雨だ」

寮に帰ろうと玄関に行くと、外はザーザー降り。

お昼まではあんなに晴れてたのに。

どうしよう…。

教室に戻って雨が弱まるのを待つか、それとも走って寮まで帰ろうか…。

「――理樹くんも今帰り?」

声に振り返ると、沙耶さんがいた。

「うん」

「そう」

沙耶さんが玄関先でエメラルドグリーンの傘を広げる。

「さっきまであんなに晴れてたのに」

「今日は傘を持ってきてよかったわ。本当によかった」

「なんてラッキーなのかしら」

「しかも大きめだから、こんな雨でも濡れずに帰れるわね」

なぜか傘について語っている。

「……」

「じゃあ、あたしは帰るから」

「うん」

「……」

帰る、と言っておきながらその足を進めない沙耶さん。

どうしたんだろう?

「本当に帰るから」

「あーうん、気をつけてね」

「…………」

沙耶さんは一瞬の間の後に歩き始めた。

なんか後ろ髪を引かれるような歩き方に見えるけど…。

うーん、僕はどうしよう…。

「あれ?」

目を沙耶さんの背中に戻すと、沙耶さんが立ち止まっていた。

あ。

 

――ズカズカズカっ

 

くるりと身を返し戻ってきた。

「どうしたの、沙耶さん?」

「――んっ」

僕に傘を差し出してきた。

「んっ」

「?」

沙耶さんの顔を見ると、少し朱が差し込んでいる。

「あなた傘ないんでしょっ」

「そうだけど」

「あっ、あたしが寮まで送ってあげるっ」

「……」

「え?」

「うがぁあぁあぁぁぁーーーっ!! にっ、二回も言わせんなーっ!」

「あっ、あたしの傘に入れって言ってるのっっ」

顔を真っ赤にして肩を怒らせている沙耶さん。

「え、いいの?」

「女に二言はないわっ」

「ありがとう…お言葉に甘えて」

「……」

「……」

傘に入って歩き出したのはいいけど…これって…。

う…っ。

意識したら恥かしくなってきた!

 

――こつん。

 

肩と肩がぶつかる。

「うわぁあぁあぁーっ!? そ、そんなに寄よらないでよっ!」

「な、な、なにあなたまさかあたしのこと好きなんじゃないでしょうねっ!? あたしまだ処女なのよ!? 処女に手出したら責任取らなきゃいけないのよ!?」

「いやいやいやいやいきなりそんな暴露されても困るからーっ!」

慌てて離れる。

「……」

「…へっくちっ」

「ちょっと理樹くんっ!?」

「そんなに離れたら理樹くんが濡れちゃうっ」

「もっとこっちに寄って!」

「寄るなって言ったり寄れって言ったり、どっちなのさっ!」

「う…」

「うう……」

「う?」

「うんがーーーーっ!!」

沙耶さんは顔を真っ赤にして、肩を怒らせている!

しかも目はちょっと涙目だっ!

「いいから黙ってこっちに寄れーーーっ!」

――ぐいっ

「うわわっ」

腕の袖をつかまれて、沙耶さんのすぐ横に引き寄せられた!

……。

僕の腕に、沙耶さんの腕がしっかりと絡められている。

「……」

「……」

「え、えーっと……」

「沙耶さん、これって…」

「ばっ、ばかっ! こっち向かないでよっっ!」

一瞬見えた沙耶さんのその顔は。

嬉しそうな、恥かしそうな、困ったような…そんな複雑な表情だった。

 

きっと、僕も同じような顔をしてる。