#シチュ:どうやら小毬がバレンタインにパンツをプレゼントするようです。
バレンタインデー前日、さーちゃんとデパートを歩いていたときのことです。
「神北さんはどなたにバレンタインのチョコを差し上げますの?」
「リトルバスターズのみんなと…それと…えと…理樹君」
「なんですの、名前を言うだけでそのにやけた顔。本人には見せられませんわね」
「だって~…さーちゃんは?」
「わたくし? わたくしは宮沢様に決まっていますわ」
「さーちゃんもすんごい嬉しそうな顔してるよ」
「あったりまえですわっ」
そんなことを言いながら、バレンタインの特設コーナーを通りかかったときのことです。
大きなポップが目に飛び込んできました。
『チョコだなんて時代遅れ! 大本命には今巷で大流行のコレ!! コレをあげなきゃ出遅れるかも!?』
「さーちゃん、アレなんだろ?」
「大本命ですって…行きますわよっ」
「ほわっ、さ、さーちゃん待ってよーっ」
近づくとどんどん飾ってあるものが見えてきました。
黒とか白とか色とりどりで、マネキンが履いてたりして……。
「ふえぇえっ!? パ、パンツがたくさん並んでるよっ!?」
「ほ、本当ですわね…」
去年まではチョコが並んでいるコーナーに、ずらりとパンツがならんでるよ~っ!?
「……ふ、普通に皆さん、キャッキャウフフと殿方のパンツを選んでますわ……」
さーちゃんの言うとおり、周りからも『ね、彼になにあげる?』『え、私パンツ。この間テレビでチョコの時代からパンツの時代へってやってたし、乗り遅れると嫌われそうだもん』とか聞こえてきます!
「さ、さーちゃん、ど、どうしようっ!?」
「どうすると言われましても…」
「パンツをあげないと嫌われるって…」
「わ、わたくしは当然今年はパンツがきてるとは、し、知っていましたわ。だ、だからここに買いに来たのですの!」
「ほ、ほら、本命パンツを買いに行きますわよ!」
「ふえぇぇっ!? パ、パンツで大丈夫かな…?」
「――ふぅ、すっかり買い込んでしまいましたわね」
「うんー、ついついいっぱい買っちゃったよ」
「神北さんは買いすぎですわ……一体何をそんなに買ったんですの?」
「私? 理樹君に何が似合うか考えたら迷っちゃって」
えーっと、私が買ったのは。
「ライトグリーンの下着と、かぼちゃぱんつと」
「それとね、ブラジャー」
「……どうして直枝さんにあげる下着が全部女性物なんですの……?」
「ふぇ?」
「そこで不思議顔が出来るあなたがよくわかりませんわ……」
「さーちゃんは何を買ったの? マフラー?」
「どこに目をつけていらっしゃいますの?」
さーちゃんが嬉しそうに赤い帯を取り出した。
「それマフラーじゃないの?」
「これはマフラーではなく、赤フン」
「うわぁ、さすがさーちゃんっ! フンドシだなんて謙吾君にとっても似合いそうだね」
「おーっほっほっほ、宮沢様の趣味でしたら何でも知っていますわっ」
「じゃあ…後は明日学校に早く行って、机に入れておくだけだね~」
「ええ。それと店員さんに聞きましたが、インパクトを出すために包装をせずにそのまま渡すのが流行らしいですわよ」
「了解ですっ。明日はがんばろうね、さーちゃん」
「ええ、共に健闘しましょう、神北さん」
2月14日。
「うわぁ、遅刻しちゃうよーっ」
時計を見るともうチャイムが鳴る時間だっ!
「恭介がチンタラしてっからだろうがよっ」
「仕方ないだろ、まさかこんなにチョコをもらえるとは思ってなかったからな」
恭介は自分が用意してきた紙袋一杯分と、さらに両手いっぱいにチョコを抱えていた。
「ちょっとしたサイン会みたいになってたからな」
そんなことを言う謙吾も手提げにチョコを十数個忍ばせているんだけどね。
「ふかーっ!! 口しゃべってないで走れーっ!!」
――キーンコーンカーンコーン……
そういっている間にチャイムが鳴り響いた!
僕たちは慌てて教室のドアから中に飛び込んだ。
「ごめんなさい、遅れましたっ!」
「まぁ…ギリギリってとこにしといてやる。さっさと座れ。じゃー出席取んぞー」
気だるそうな担任に頭を下げて自分の席に慌てて腰を下ろした。
慌ててイスに座ったせいか、机が大きく揺れる。
――ぽろっ。
同時に。
僕の机から何かが落ちた。
「ほらよ、理樹。ブラジャーとパンティーが落ちたぜ」
「ありがとう真人」
真人からブラジャーとパンツを受け取り、再び机の中にしまった。
「………………………………」
「……あれ?」
しまったはいいけど、果てしなく違和感を感じるっ!!
い、今のはっ!?
取り出して再確認してみる。
「ブッ!?」
こ、これって間違いなく――ブラとパンツ!?
『ええええええええええええええぇぇぇぇぇーーーーっ!!』
クラスメイトの大絶叫でクラスが揺れた!!
『な、な、直枝の机からブラジャーとパンツが出てきたぞっ!?』
『きちんと替えを更衣室に持っていかないからそうなるのよ! 女の子の常識でしょ!?』
『やっぱり直枝は女だったのか! 妙に安心した!! 俺ホモじゃない!!』
『可愛い柄だよね♪ 私も直枝くんとおそろいで買っちゃおうかな~♪』
『リキは何カップですか!? 何カップなのですかーっ!?』
『ぶっちゃけ直枝のブラジャーなら被って走り回りたい』
と、みんないささか混乱気味だ!!
それ以前にみんなが言うポイントがどこかおかしい!!
「ふえぇぇぇっ、そ、それはっ」
あれ? 小毬さんの様子がおかしいような…?
「こらー、おまえらよぉ…たかが直枝の下着で騒ぎすぎだ」
あまりの騒ぎに先生が止めに入った。
「いやっ、これ僕の下着じゃないですからっ!!」
「直枝、授業に関係ないものを持ってきたらどうなるかわかってるな?」
もちろん没収だ。けど、僕には関係ないものだし…。
「その下着は先生がオークションに出しておく」
没収よりランクが上だった!!
「2万円からスタートな」
『3万!!』『3万4千!!』『は…八百円しか持ってない…っ』『4マーン!!』
もう始まってるし!! というかみんなの目がギラギラしててこわいっ!!
「だからーっ!!」
「そ、それっ……わ、私が理樹君にあげたものですっ!」
僕が言う前に、小毬さんが立ち上がり声を張り上げていた。
「小毬さん…?」
「ごめんね、理樹君。こ、こんなに騒ぎになっちゃうと思わなくて」
途端に教室が静かになったが。
「待て、それはつまり……小毬君のパンツということか!?」
長い黒髪の少女が音を立てて立ち上がった!
来ヶ谷さんだ!!
「理樹君、今すぐそれを私によこせ早くよこせ剥くぞよこせ」
「剥くって何!?」
めちゃくちゃ殺気だてて僕に来ヶ谷さんが迫ってきたーっ!