SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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192.ターニャにサンタコスさせてハグしてみよう【幼女戦記】

【SS】ターニャにサンタコスさせてハグしてみよう【幼女戦記】

 

ターニャ・デグレチャフ少尉。

 生きて取得は難しいとされる名誉ある銀翼突撃章を生きながらにして授与された数少ない将校。

若干『九歳』にして――この注意書きを入れなければならないところがターニャの異常さと、この世界の狂った様子を如実に物語っているだろう。

 

>>>統一暦一九二〇年十二月二十四日<<<

 

幼女を戦場に送り込むこの狂った世界にも、どうやら某有名な生誕祭というものがあるようだ。

「……広報部め……」

特殊任務前に一時的に自室へ戻ったターニャだったが、部屋に戻ったと同時に心に秘めていた恨み言があふれ出した。

敵である共和国軍が「ラインの悪魔」と恐れている彼女の今の形相を見たら、百戦錬磨の大隊でさえ即時撤退を決め込むであろう。

「何が! 何が士気向上のためのプロパガンダだ!」

拳を叩き込む枕からポフポフと鈍い音が発せられる。

こんなにも怒っているのは無論、先ほど伝えられた軍令に対してだ。

曰く、ターニャは「一部」の兵士に絶大なる人気があるという。

曰く、ターニャとツーマンセルのセレブリャコーフ伍長は癒し系女性兵士としてノーマルな兵士に人気があるという。

曰く、二人の存在は前線の兵士たちの士気向上に大きく貢献しているという。

曰く、クリスマスプレゼントとして二人の愛くるしいプロマイドを前線に配給・配備すれば酒や煙草以上に前線の兵士の活力になる。

「ふざけるのも大概にしろ! くそっ」

枕を殴り疲れ、柔らかなそれに苦虫をダース単位で嚙みつぶしたように引きつった顔をうずめた。

怒りを通り越して頭痛さえしてくる。

最前線においての酒や煙草といった嗜好品の大切さは理解しているつもりだ。

それらを楽しめなくなった前線はもはや崩壊は目前であろう。

「だからといってなぜ私がこんな目に遭わねばならんのだっ!」

だが軍令は軍令であり、ターニャもそれをわきまえた兵士だ。

鉛を括りつけたような重い体をやっとの思いで起こし、撮影所へと向かうしかないのであった。

 

***

 

ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ伍長は既にサンタ服への着替えを済ませていた。

「ど、どうでしょうか……? 帽子はもうちょっと後ろにずらして……こんな感じでしょうか?」

「わぁぁっ! とてもとてもお似合いですよ!」

着替えを手伝ってくれた女性訓練兵から「素敵なサンタさんですわ」や「意外とスタイルがよろしいのですね!」といった黄色い声があふれていた。

ブーツの先を床にトントン。足先までサイズがぴったりだ。

準備は整い、鏡の前でもうひとチェック。

うんっ、可愛い格好♪

思わず笑顔が零れてしまう。

今までオシャレをする暇すらなかった。

乙女として失格だと思っていた矢先にこの仕事だ。

気合も入るというものである。

「準備よし、っと。――デグレチャフ少尉は……?」

「あ、えーと……」

言葉を濁した女性訓練兵の目線の先のドア。

その奥から、

『ななななんだこれはぁぁぁぁ……ぁぁ……』

驚きと絶望と諦めの全てを詰め込んだ、今まで聞いたこともない声がドア越しに響いてきていた。

……ああ、なんというか……お可哀そうに、少尉……けどちょっと見たい……。

哀れみ半分、好奇心半分でしばらく待っていると、観念したかのようにドアがゆっくりと開いた。

出てきたデグレチャフ少尉に目を向けたセレブリャコーフ伍長は。

「ぇ」

言葉を失っていた。

そこから現れたのは――天使――だった。

大き目サイズの赤のサンタ帽をちょこんと頭に乗せ、

ふわふわのファーがついた赤のショールを肩にかけ、

膨らんだサンタスカート、そこから伸びる白のタイツ。

なにより

「~~~~~っ! ~~~~~っっ!!」

いつもは陶器のような白い頬を桜色に染め、うつむき、涙目で、恥ずかしさに必死に耐えるデグレチャフ少尉は……

「……殺人的……」

 思わず口をついて出た、まさにその一言に限る。

――あぁあぁ、抱き着きたいっ! 頬ずりしたいっ!

その衝動をこらえられないほどの萌死級の可愛さだ。

 「デグレチャフ少尉ーっ! とてもお可愛……」

走って近寄ろうとしたときだ。

今まで羞恥に打ち震えていたデグレチャフ少尉がピタリと止まった。

「…………」

「少…尉…?」

ゆっくりと顔を上げる少尉だが、すでに恥ずかしがっている様子は消え失せていた。

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「……何か言いかけたな、セレブリャコーフ伍長」

デグレチャフ少尉の瞳孔が散瞳する。

「ひィッ!?」

「良い根性をしている。さすが私が鍛えただけある。言ってみたまえ」

心臓をわしづかみにされたような感覚が走り抜ける。

「どうした? 発言を許可する」

「ひぃぃっ! ななな、なんでもございませんっっ!!」

 殺意という無形の概念に幼女という形を与えたのならば、まさに今目の前にいるデグレチャフ少尉となるであろう。

仮に「可愛いですね♪」と口を滑らせようものなら侮辱罪でこの場で処刑、それを確かな現実となりうるものとして受け入れられるだけの殺意を放っていた。

 

 ***

 

「はい、もう一枚いきますよ~」

「う、うむ……!」

それぞれ個別での撮影が進んでいた。

「あ、あの、デ、デグレチャフ少尉」

撮影班である女性訓練兵が恐る恐る腫物に触れるかのようにか細い声をかけた。

「無駄口を叩かず早く撮り終わってくれないか」

「ですがその……いかほどかポーズをつけていただかなければプロマイドとして成立しないかと愚考する次第でして……」

「む、むぅ」

セレブリャコーフ伍長の撮影は順調に進んだのだが、問題はデグレチャフ少尉だった。

とにかく固い。

本人は恥ずかしながらも軍務とのことで、それをこなそうと頑張っている。

だがどれも証明写真を撮るような硬さなのだ。

まだダビデの石像のほうが生き生きとしている。

現状撮影できたパターンは直立と仁王立ちのみ。

固さ和らげようとウサギさんのぬいぐるみを持ってもらったが、どう見たってぬいぐるみにヘッドロックをかけている石像にしか見えない残念なものとなった。

撮影班も苦笑いの困り顔だ。

 「セレブリャコーフ伍長、ご相談が」

「はい?」

撮影の様子を見ていると、撮影班に手招きで呼ばれた。

 「および立てして申し訳ございません。あの、少尉ですが固すぎでして……」

「そのようですね……」

「そこでなのですが、伍長がご一緒に写ってもらってもよいでしょうか? そのほうが絵的にも、少尉的にもよろしいかと」

「え? えっ!? しょ、小官がでありますか!?」

……一歩間違えただけで地雷、しかも対戦車用地雷を踏み抜きそうだった。

とはいえ…と、少尉を見やると、ウサギさんのぬいぐるみを羽交い絞め(本人はおそらくハグのつもり)をしながら、いつも以上に固い表情でこちらを待っていた。

「わかりました。お任せください」

 

***

 

「――では、デグレチャフ少尉が前、セレブリャコーフ伍長が後ろに立ち、少尉に後ろから手を回す形でお願いします」

「は、はい!」

私の前に、ちょこんとデグレチャフ少尉が立っている。

「一人で問題なかった」と怒る少尉をなんとか説得したが、その顔はまだ少し膨れている。

「デグレチャフ少尉、失礼いたします!」

「…許可する」

私としては少尉を如何に噴火させないかの一点。それはもうドキドキだ。

「し、失礼いたします……」

 憤然と腕組をしている少尉に後ろから腕をそっと回していく。

そして。

 

――ふにっ

 

あの! あの鬼のような少尉を!!

後ろからキュウっとハグしてしまった!

 

……やっ。

やわらか~~~いっ!

それに少尉

いい匂い~~~~っ!

ふわふわの抱き心地にほんのりとミルクのような香り。

こっ、これは、

ハマってしまいそうーーーっ!

 

と、いけないいけない。

「デ、デグレチャフ少尉、少しの間だけ我慢をお願いいたします」

「……ぁぅ……」

「……? あの、デグレチャフ少尉?」

「……!!」

突然少尉がビクリと反応したかと思うと、ブンブンと頭を振った。

そうしたかと思うと、今まで小さくふわふわだった体が急に硬くなった。

「なんたる屈辱か! とっとと終わらせるぞ伍長!」

「は、はいっ」

「……」

なぜかソワソワしているような少尉。

「……」

もう一度、少尉を抱いている腕にぎゅうぅと力を入れてみた。

「……ん……っ」

あ、すんごく柔らかくなった。

顔に目を向けると、恥ずかし気、けどどこか気持ちよさげなまどろんだ表情。

耳まで桜色のオプション付き。

いつもは鬼か悪魔かと例えられる少尉が、まるで私の腕に翻弄される子猫のよう。

腕の力を緩めてみた。

「……!!」

ハッとしたかのように動き出した。

「ご、伍長、あ、暑苦しいぞ!」

「申し訳ございませんっ」

「……」

「……」

「……」

「……」

――ふにふに。

「……んっ…んっ……」

あ、蕩けそうな顔。

この辺に力を入れると気持ちいいのかな?

「……っぁ……」

あ、ここがいいんだ。

声が漏れているのにも気づいてなさそうだ。

もう体重は私にあずけてる感じ。

……。

抱く腕を緩めてみた。

「…………………………!!」

あ、動き出した。

「人にくっつかれるのは何とも不快だな!! 早く終わらせて欲しいものだな、伍長!」

「はい、おっしゃる通りかと」

「……」

なんというか……。

「……」

なんとなくだけど。

「……」

「……」

「……」

「……」

すんごく何かを待っているように見えるのは私だけ?

じゃあ……。

――ぎゅぅぅ~っ

「……ぁぅぅぅ……」

――ふにふにふにふに

「……んっ…はぅ…ぅぁ…ん……」

私の抱き着く力加減に合わせて少尉が気持ちよさそうに頬をほてらせている。

これは病みつきになってしまいそうっ!

ふにふにふにふに。

ちなみに撮影班は――

 

「んまぁあぁぁ!! 最ッッッ高!! いいわその表情っ!! ああたまらないっ!! ああスゴイ!! そうそう、その顔、それ!! んまぁぁぁぁ!!」

 

あの人たちスゴイ奇声を発しながらシャッターを切りまくっているけれど、大丈夫かしらふにふにふにふに。

 

こうして撮影班、デグレチャフ少尉ともに息も絶え絶えで撮影が終了したのだった。

 

***

 

で、今回のオチというか後日談。

「一個中隊で大隊を撃破!? プロマイドを要求!? 何!? 別前線でも大隊を撃破でプロマイドを要求だと!? どうなっているんだ!!」

ルーデンドルフは頭を抱えていた。

酒もいらない、煙草もいらない、だがデグレチャフ少尉とセレブリャコーフ伍長のプロマイドが欲しいという要求が後を絶たない。

渡さなければ、いや、流通が滞ったら内部崩壊を起こすこと必至だ。

「……兵站を……」

遠い遠い前線の空に向け、

「考え直さなければな……」

そうつぶやくのだった……。

 

191.サヤちゃんがバレンタインチョコを渡すようです【だがしかし】

【SS】サヤちゃんがバレンタインチョコを渡すようです【だがしかし】

 

――2月14日。日曜日。

朝方の誰もいない喫茶『エンドウ』。

仕込みの後にアタシ、サヤと兄貴の豆で向い合って座っていた。

「――サヤ、本当にやるんだな…?」

「――やるよ。今日こそ……やってやる」

「そうか……ブツは用意したのか?」

アタシは無言で手に持っていたソレをテーブルの真中に出した。

可愛くデコレーションされたソレ。

昨日の夜、何度も何度も失敗して作ったチョコレートだった。

「おっ、ハート型かよ! おま、がんばったな!」

「そっ…それだけ今回は本気だってこと」

そう。今回のアタシは一味違うのだ。

いつもは学校だったから渡せなかったり、渡せても「んっ! んっ!」ってチロルチョコを渡すのが限界だったけどさ…。

今日は!

今日こそはっ!

コッ、コッ、ココナツに、ア、ア、アア、アタシの気持ちを伝えてやるんだからっ!!

「おまえの本気、見せてもらったぜ。――今日の作戦説明に移るぞ」

「う、うん」

意識もしてないけど、ゴクリと喉がなってしまう。

「――今日は日曜日だ。ココナツのヤツはいつもの休みのパターン通り誰も客がいない時間帯、15時にウチにくる」

豆が似合わないサングラスをカチャリと直した。

「その前におまえはおめかしタイムな。可愛くめかし込んでこい。どうせこの雪じゃココナツ以外の客なんて来やしないさ。フロアに誰もいなくたって問題ねぇよ」

それ喫茶店としてどうなの、とも思っちゃうけど今はどーでもいい。

大事なのはココナツの気持ちを掴むことだからね。

「そして15時。ココナツが来た時にすぐさまチョコを渡すんだ。おまえのことだ、ココナツの顔を見て別のことを話したら絶対に渡せなくなんぜ」

「そ、そうだね」

くっ……悔しいけど兄貴の言うとおりだ。

何度かそれで渡すタイミングをなくして自分で自分のチョコを食べた時があったっけ……。

「渡すときはそうだなぁ……『あなたが好きです』って直球どうよ?」

「え!?へ!? むっ、むーり無理無理無理無理っ!!」

あ~~~想像しただけで顔熱っ! 無理っ! マジそれ無理っ!

「だよな、さすがにハードルが高ぇ。なら――『アタシの気持ちだ受け取れ!』とかでどうよ? ハート型だしな。伝わりやすいだろ」

「そ、それなら何とか」

「んじゃ、オレが『たまたま』フロアに下りてきて『ずっと悩んでたんだぜ、おまえに気持ちを打ち明けるの。お前のこと、好きなんだとよ』とクールに援護射撃してやんよ」

「う……なんか微妙だけど……」

とはいえ、正直自分で、す、す、好きって言える気がしない……。

えぇい、もうヤケクソだ!

「そ、それでおねがい!」

「了解だっ!」

ビシッと親指を立てる兄貴。

――今日、アタシの運命が決まるっ……!

 

***

 

――14時…50分。

――どっきどっきどっきどっきどっきどっき!!

 

ああああと10分くらいでココナツくるっ!

あああと10分くらいっ!!

 

――うろうろ、うろうろ。

――どっきどっきどっきどっきどっきどっき!!

――うろうろ、うろうろ。

 

「……おいサヤ、もう少し落ち着けって」

「おおおおおおちちちちつつつついてるからっっっ!!」

「……あー……座ったらどうよ?」

「すすすすすわる? あ、あ、そ、そうだね。えとえとえと、よいしょっと」

「床に体育座りすんなよ……。お。ココナツからLINEだ」

「ええええええええっ!? な、な、ななななななななんだって?」

「そろそろ来るってよ。いつも通りだな」

「そそそそそそそそそう!! どどどどどどうしようっ!!」

「どうしようも何も、来たら渡す、だ。作戦通り、オレ、バック下がってるから」

あ、兄貴がバックに下がっていった……。

………………。

…………。

……。

 

――ドキドキドキドキドキドキドキ!!

あぁぁぁぁっ、くっ、口から心臓が飛び出して来ちゃいそうっ!

 

――ドキドキドキドキドドドドドドドドドドドド!!

も、もう、く、来るなら早く来てぇぇぇっ!!

 

 

ドアが。

――チリンチリン

開いた。

 

 

きたっ!? きききききききたぁぁっっ!!

ああああああもうっっっっ!!

女は度胸ッ!!

なるようになれぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっっ!!!

 

アタシは手に持っていた、アタシの好きの気持ちがたっぷりつまったチョコを、

思いっきり差し出した!!

 

「ここここここここれねっ! あのっ! あのねッ! アッ、アッアタシのっ、きき、き、気持ちだからっ!! あんたのことがっ、ずっと前からっっっ!!」

 

「さ、サヤ師……?」

「ずっとずっと前からッッ……………………へ……………………?」

顔を上げると。

「え、わ、私……?」

「え…………ほ、ほたるちゃん……?」

ポカン、という形容詞がこれ以上にないくらいに似合っているほたるちゃんが立っていた。

ほたるちゃんがなんでここに?

ぽかんと突っ立てるほたるちゃんと、真っ赤な顔でほたるちゃんにハート型のチョコを突き出しているアタシ。

あたかも女の子が女の子に告ってる感じじゃん。

 

じゃなくてぇえぇえぇえぇえぇえぇーーーーー!!!!

えええええええええええええぇぇぇぇぇーーーー!?!?

 

「さ、さっ、サヤ師……!?」

「あああぁぁぁあぁ、ほ、ほた、ほた…!?」

 

絶賛テンパってる時にひょっこり兄貴が顔を出した。

そして。

クールにつぶやいた。

 

「――サヤのやつ、ずっと悩んでたんだぜ、おまえに気持ちを打ち明けるの。お前のこと……好きなんだとよ」

 

うん。計画通り。

……。

ってねぇぇぇぇ!!

援護射撃じゃないよソレっ!!!

フレンドリーファイアだからっっっっ!!!

アタシが女の子が好きな性癖を思い切って打ち明けたみたいになってんじゃん!!

「あ、いっけねっ☆」じゃないだろ兄貴ぃぃぃ!!

 

「さ、サヤ師……」

「ほっ、ほたるちゃん、ち、違うのっ! こ、これには深いわけが……」

あれ、なんかほたるちゃんの顔、赤いような……。

「サヤ師っ!」

 

――がばーっ!!

いきなりハグされたっ!?

 

「今までさぞかしつらかったでしょうねっ!!」

「はぁっ!? ほたっ、むぐっ、く、くるしい……」

「きっと常識と自分の想いの狭間でさぞかし揺れていたのね!」

なんかよくわからないけど、ほたるちゃんの頭の中でドラマティックなことが展開しちゃってる!!

「ほたるちゃん、こ、これはねっ」

「ええ、わかったわ! け、けど、わ、私も女性を受け入れるまでには時間が必要よ。まずは友達……いえ、もう友達ね! 友達以上恋人未満からはじめましょうっ!!」

「えええええっ!? いやっ、アタ――」

ほたるちゃんの腕がアタシの腰に回され、もう片方の手の人差し指でアタシの唇を押さえた。

宝塚の男役が女役にキスをするときのようなポーズになってるし!

なんで!?

どうしてこうなった!?

「これ以上言葉を紡がなくてもいいの。落ち着きなさい、サヤ師……。私はもう逃げないわ。落ち着いて……ほら……」

ほたるちゃんの指が。

アタシの唇をなぞってる……。

「ごめんなさい、貴女のその想いに気づかず……」

なんて優しい手つき……。

「これからは……」

優しげな瞳。

魅惑的で蠱惑的な瞳。

「ずっと一緒にいましょうか……」

ほたるちゃんの整った綺麗な顔が近づいてくる……。

なんかアタシ、アタシ、もう……。

 

――カランカラン。

「う~さむいっ! 雪が降ってきたよサヤちゃんんんんなななななんぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

ドアを開けたココナツが固まっていた。

劇画調で。

「あら、ココノツ君」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

「――…………ハッ!?」

い、今アタシ何しようとしてた!?

えっ!? ほたるちゃんと!?

一瞬あたま真っ白になってたしっ!!

じゃなくて!!

「コ、ココナツ!! これはそのあの、なんと説明したらいいのかさっ!!」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

「えええっと、ほら、あれ! バレンタインのチョコを渡そうとしたらほたるちゃんがさ!」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

「どうやらココノツ君には今のシーンは刺激的すぎたようね。初代ファミコンのごとくバグってるから何を言っても無駄よ」

 

 

この後、アタシは誤解を解くのに1時間、バグったココナツを治すのに1時間を費やしたのだった……。

結局手作りチョコはほたるちゃんで、ココナツにはいつも通りのチロルチョコだった。

アタシの気持ちを伝えるの、またしばらく後になりそう……。

ハァ……。

 

後日談。

「サヤ師、キスしましょう! 若干濃厚なやつでいいわ!」

「若干濃厚って何!? ってか、しないからねっ!?」

……あの日からほたるちゃんからのスキンシップは増えたのは気のせいか……?