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SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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スプリングハズカム・序章【涼宮ハルヒの憂鬱SS】

涼宮ハルヒの憂鬱 スプリングハズカム

スプリングハズカム・序章【涼宮ハルヒの憂鬱SS】

突然、長門から告白された!
しかもハルヒの目の前で!
オイ長門、お前何考えてんだよっ!
俺はいったいどうすりゃいいんだ!

 

 

保守的だ、と世間一般の奴が聞いたら言うだろう。
だが俺は声高に叫びたい。
日常が一番だと。


――話は1時間半前に戻る。
SOS団に占拠された文芸部の部室はいつもと何ら変わらない様子を見せていた。
何ら変わらない様子とはつまり、物静かな文学少女風宇宙人はハードカバーの本を読み、出身地お花畑と言えそうな未来人はお茶を全員に配って歩き、胡散臭いスマイリー超能力者は逃げ場のないチェックメイトに長考中だ。
取りあえずは人間に分類されている我らが団長様はというと、頬杖を着きながら不貞腐れたような顔でネット巡回中。
既に俺はこの異常空間を日常と判断してしまっているようだ。
同級生に刺されそうになったり、特大カマドウマと乱闘を繰り広げるよりよっぽど日常的だと思わないか?
「また負けてしまいましたね」
なんでこれだけ毎日やっても上達しないんだ、コイツは。
「才能がないのでしょう」
ニヤケ面のまま駒を元の位置に戻し始める。
俺はその間に朝比奈さんが入れてくれたお茶をすすり、
「ああ、幸せだ…」
心からの声が漏れる。
「お茶の入れ方をお勉強したんですよ」
朝比奈さんのエンジェリックスマイルは100均のお茶でさえグラム1万円のお茶に変えてしまいますよ。
「……僕もとても幸せですよ。なんせバイトがここ数ヶ月の間お休みですからね」
「……それだけ涼宮さんが現状に満足しているということですよ」
ええい、お前のことなんか聞いちゃいない顔が近い鼻息がかかる気持ち悪い!
「たまに動かないと腕が鈍ってしまいそうです」
冗談です、と取って着けた様に笑う古泉。
どこまで本気かわからん奴だ。もしかしたら数ヶ月のブランクでこいつもどこか手持ち無沙汰だったのかもしれない。
「ねえキョン」
窓際の席で仏頂面していたハルヒが口を開いた。
「……」
無視を決め込む。ハルヒの発言が俺に百害あって一利無しなのがわかりきっているからな。
が、お構いなしで話し続ける。
「暇なんだけど」
「だから何だ」
ついつい答えてしまう自分が寂しい。
「あんたちょっと素っ裸でラリホーとか叫びながら校内を全力疾走しなさい」
お前の暇つぶしで臭い飯を食うハメになって堪るかよ。
「…つまんない。生活に変化が欲しいところよね」
つまらなそうにそっぽを向くハルヒだったが……俺もちょっとは、ほんのちょっとは日常にスパイスが欲しいと思っちまったんだ。
それが間違いだった。ああ、間違いだったとも。


その1時間半後。
ちょうど俺が古泉にチェス3連勝を収めたときだ。
パタム、と本が閉じられた音がした。
そこまでは良かったんだが、問題はその後だ。
「キョン」
俺たちはその一言で固まった!
俺は手に持ったキングを落とし、古泉はキョトンと間抜け面、朝比奈さんは大きな瞳をパチクリとし、ハルヒなんか咥えていたアンパンを床に落とした。
だってそうだろ?
その発言は誰であろう、あの長門有希その人のものだったからだ!
長門が話しかけてくるのはそこそこ珍しいことだが、俺の、しかもあだ名で呼びかけるなんて天変地異の前触れにしか思えん。
「キョン」
もう一度呼びかけられる。黒く大きな瞳が俺に向けられている。
「な、なんだ?」
声が上ずっている。自分が動揺しまくっているのがよーくわかる。わざわざ確認しなくともわかる。
「私と付き合って欲しい」
付き合う? 付き合うって……。
「どこにだ?」
買い物か? はたまた図書館か?
「そうじゃない」
「私と交際して欲しい、という意味の付き合う」
「「「「……………………………………」」」」
…………。
……。
部室全体を液体窒素に突っ込んだらきっと今のようになると思う。
古泉はお茶を溢していることにも気付かず、朝比奈さんは瞬きが止まり、ハルヒに至ってはゴキブリ大家族の大移住を目撃したような顔だ。
音のなくなった世界で俺は必死に頭を整理する。
ちょ、ちょちょちょちょちょっと待て。
交際ってもしかしてアレか? 虹彩の方か? 虹彩を突き合う…目潰し合戦ってことか?
長門……お前は冗談言っても顔にも言葉にも出ないんだから程々にしなきゃダメだぞ。
「そうじゃない」
俺の頬を冷や汗が伝う。
「私は本気」
「私と付き合って欲しい」
「許可を」
長門は深い深い瞳で俺をじっと見つめている。
「ちょ、ちょっと待て――」
ガタンッ!!
「ちょ、ちょっ…ちょ、ちょっとまちょ…待ちなさいよ!」
椅子をひっくり返し、ハルヒが飛び上がらん勢いで立ち上がった。
ちなみに言葉の端々からハルヒの混乱っぷりが見て取れる。
長門の瞳がハルヒへと向けられる。
「なっ、何を突然言い出すわけ? ゆ、有希が冗談を言うなんて、ほ、ホントめずらしいわね~」
おい、口元が引きつってるぞ。
「私は本気」
「……………………」
長門の淡々とした言葉にハルヒはあんぐりと口を開けている。
「私という個体がそれを望んでいる」
次第にあんぐりと開けられていたハルヒの口がヒクヒクへと移行している。
おい、長門!
これ以上そこの時限爆弾女を刺激しないでくれ、頼むから!
「そのショッカーの改造手術が失敗した仮面ライダーみたいな顔した奴のどこがいいっていうの!?」
ビシーッと俺を指差す。
そこまで言うことはないだろうが。
そのハルヒの言葉に促されるように、長門が俺のことを頭のてっぺんから足先、また頭と眺める。そしてハルヒに向き直り、
「全部」
って、長門様ーっ!
ハルヒのヒクヒクがピキピキへと移行していく!
だ、誰かこの状況をどうにかしてくれ! こ、古泉、取り合えずこんなときはお前が頼りだっ!
その頼りの古泉も朝比奈さんも、出産に立ち会うお姉ちゃんとお兄ちゃんのように遠巻きにオロオロとしているだけだ!
今の俺は、蛇に睨まれたヒキガエルも引っくり返るほど脂汗をかいている!
そんな俺の気持ちを1ナノメートルも察していない長門が俺を見つめ再度、
「私と付き合って欲しい」
「許可を」
「ぐ…」
「許可を」
「む、むぅ…」
そりゃあ、お前は可愛いし、告白されたら俺だって悪い気はしない。
けどな、そもそもおまえ宇宙人だろ!?
ど、どうする、どうするのよ俺っ!?
「待っちなさいよっっ!!!」
ハルヒの怒号によって救われた!
「団員同士の交際は一切認めないんだからっ!!」
頑張れハルヒ、今日だけはお前を応援するぞ!
今の長門を止められるのはお前だけだっ!
「なぜ?」
「だ、団則にもあるでしょ!!」
「団則自体の存在を確認出来ない」
「い、今あたしが作ったのよ!!」
今ほどお前のそのムチャクチャな強引さに感謝したことはないぞ!
「私の発言後に作られた規則ならば」
「溯(さかのぼ)って拘束性を発揮することは出来ない」
頼む長門、空気を読め!!
見ろ、朝比奈さんは泣いているし、古泉の笑顔は引きつりまくってるぞ!
ハルヒなんてこのまま鬼が島に行ってもすんなり受け入れられそうな顔じゃないか!
「あぁーーーっ、もぅっ!!!」
頭を掻きむしるハルヒ。そしてシュバッと音がするほどの勢いで俺を指差す!
「こいつはあたしの忠実なる下僕なワケ!! わかる!? まずはあたしに許可を取るのがスジってもんでしょ!?」
とんでもないことを言い放つハルヒだが、今は甘んじて受け入れるぞ!
「もちろんそんなもん絶対許可しないけど!」
腕組みをして強がるハルヒだが、
「日本国憲法第18条では、いかなる奴隷的拘束も禁止している」
「よって彼以外の許可は必要ないと判断」
そう言うと、長門は俺の横へとトテトテと近づいてきた。
「あなたは私が幸せにする」
ちょっと待て長門!?
お前は今自分がやってることをわかっているのか!?
俺を崖っぷちに追い込んで、どつき回しながらそのセリフを言ってるからな!!
どこのヤンデレだよ!?
「な……――!! ――!!!」
もはやハルヒは声すら音にもならず、怒り怒髪天を貫いて月まで突き刺さっていそうなほど怒っている!
――――――――――。
――――――。
――。
地獄の絶対零度を超越するような静寂の中、
ピピピピッ…。
古泉の携帯が無機質に鳴り響いた。
笑顔が張り付いた真っ青な顔をしている辺り、誰からの電話でどんな用件かさえ分かっているのだろう。
俺ですら分かるぞ。
「うーーーっっさぁぁぁーーーいっっ!!!」
古泉はハルヒの最大級の八つ当たりボイスを受け、口元を引きつかせながら部室から退散した。
この後はあの宮崎映画に出そうな奴とバトルだろうが、この場から出れるだけお前が羨ましい。
ちなみに朝比奈さんは隅っこで泣きながら頭を抱えて震えている。
「…な、長門」
俺は状況を打破すべく、思い切って長門に話しかけた。
「なに?」
「い、いきなり付き合うったって、そりゃ無理な話だろ?」
俺はやんわりと断る方向へ話を持っていこうとしたのだが。
「いきなりでなければ?」
長門は、全てを吸い込みそうな瞳で俺を見つめてくる!
「あ…いや、いきなりじゃなきゃ…まあ、どうなんだろうな…」
ついつい曖昧になっちまった俺!
「そう」
何に納得したのかはよく分からないが、それだけ言うと長門は帰り支度を一瞬で済ませ部室から出て行った。
「「「……」」」
後には、すっかりと青ざめた朝比奈さんと、口を半開きにしている俺、一瞬触っただけでメルトダウンしそうなハルヒが残された。
「わ、わわわわわわわ、わたしも帰りますーーーっ」
まさに一目散に駆け出す朝比奈さん。
朝比奈さ~ん、メイド服のままですよ……。
「…………」
「…………」
「キョン~、もてもてじゃないの~。あーあ、あんな可愛らしい子に告白されるなんて、なんて羨ましいことでしょうね~」
「アレだろ? 魔が差した、みたいな感じだろ」
「…………」
「…………」
「…………」
「帰るっ!!」
ぶっきらぼうに鞄を掴み取るとズカズカと歩き出し、
「ふんっ!」
「いでぇっ!!」
俺の足を思いっきり踏んでいきやがった!!

ったく。
一体何がどうなってんだ?


俺はいったいどうすりゃいいんだ!