SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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167.佐々美・鈴のクッキー【百合】

#シチュ:春と夏の合間から時は流れ。あれだけぶつかっていた佐々美と鈴も和解して仲良しになっていた。

というかかなり仲良しになっていた。

 

 

――12月2日。

冬ということで放課後のソフトボールの練習も早めに終わり、わたくし笹瀬川佐々美は特別教室棟を歩いていた。

(あのシャーペン、棗さんとお揃いでしたのに……)

教室にもなかったし、たぶん今日の移動の時間に特別教室に置き忘れた……はずですわ。

(なくしたなんて言って、あの娘が悲しむ顔は見たくないですわね――って何を考えてるのわたくしはっ!! ……はぁ……)

一人相撲して盛大に溜息をつきながら、こんな時間にこんな人気のない場所を歩いていた。

調理室を通りかかった時だった。

 

――カタカタカタカタ……

 

何かをかき混ぜるような音が聞こえてきた。

「この音、泡だて器を使っている音……?」

こっそり調理室を覗いてみると。

 

「うーみゅ……むずかしいな、これ……」

 

棗鈴が三角巾を頭につけて一生懸命何かをかき混ぜていた。

これは……

キュピンと目が光ったのが自分でもわかる。

突入あるのみですわぁっ!!

 

「棗鈴っ!!」

「ふんみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!?!?」

文字通り飛び上がって驚いた後、慌てて手に持っていたボールを後ろに隠した!

「ぱっ、ぱっさぱさささみっ!?」

「さ・さ・せ・が・わ・さ・さ・みですわ!! 人を乾燥肌みたいに言わないでくださるっ!?」

「なななななななな何しにきたんだっ!?」

「あなたが何かしてたから見にきただけですわ。何してるのですの?」

「なっなにもしてないぞっホントだぞっホントのホントだぞっ」

「……」

「……」

「……」

「……な、なんでもないぞ」

そんな必死に背中にボールを隠しながら言われましてもねぇ……。

横目でテーブルの上を見渡した。

転がるバター。

散らかる小麦粉。

チョコチップ。

伸ばし棒。

伸ばしてある生地。

……これは……

「――クッキーを作ってるんですの?」

「おまえ超能力者なのかっ!? じゃなくて見るなーっ!」

いそいで隠そうとしているけどバレバレですわ……。

鉄板に並んでいる物体は残念ながらアメーバの形にしか見えない。

「型抜きはどうしたんですの?」

「近くの100均になかった……」

ホントぶきっちょですわね……。

こういうところが構ってあげたくなってしまうのですの。

「このわたくしが手伝って差し上げますわ」

「な……っ!? い、いらんわっ!」

「はいはい♪ 生地はこちらの使ってよろしいですの?」

「だーかーらっ、いら……うみゅみゅ……相変わらずごういんだぞ、おまえ……」

「何とでも言えばいいですわ。形は丸?」

「(ちりん)」

「あ、棗さん。焼く前に爪楊枝で穴を開けてあげると熱が通りやすくなりますわ」

「そうなのか?」

「こういうふうに……えい、えいと。6個くらい穴を開ければいいですわね」

「クリリンみたいだな」

「何ですのそれ……。――ハート型のクッキーも作っていいですの?」

「はっ、ハートだとっ!?」

ガタタンッ!となぜか棗さんが驚いたように後ずさった。

顔はなぜかトマトのように真っ赤。

「いやですの?」

「う、うーみゅ……」

その真っ赤な顔をプイとそらした。

「…………お、おまえがいいなら……いい」

「じゃ、ハートを量産しますわね」

「(………………ちりん)」

「あなたのそれ、なんですの……?」

「ねこだろ、どーみても」

……アメーバじゃなかったのですわね……。

 

***

 

次の日。

朝、学校にいくと――

「あれは……棗さん?」

わたくしの下駄箱の前に棗さんが立っていた。

可愛らしい袋を持って辺りをキョロキョロきょろきょろ。

完全に挙動不審ですわね……。

 

「――何をしてるんですの?」

「ふんみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!?!?」

文字通り飛び上がって驚いた後、慌てて手に持っていた袋を後ろに隠した!

「さ、さざんがささみっ!?」

「さ・さ・せ・が・わ・さ・さ・みですわ!! 人を九九っぽいタイトルのアニメみたいにいわないでくださる!?」

はぁ、リアクションが昨日と同じですわ。

「わたくしの下足箱の前で何をしてるんですの?」

なぜか耳まで赤く染めて目が泳いでしまっている。

「きょ、きょうはおひがらもよく」

「曇ってますわよ。寒いですし」

「……う、うーみゅ……」

「な、なんですの?」

頬を赤らめしどろもどろだったが、意を決したようにわたくしに凛とした目を向けてきた。

「んっ!」

手に持った可愛らしい袋を押し付けてくる棗さん。

「へ?」

「んっ! んっ」

胸元にその袋をぐいぐいと押し付けてきた。

「……受け取ればいいんですの?」

「(ちりん)」

「……?」

棗さんは足先で「の」の字を書いている。

見ろ、ってこと……ですの?

不審に思いながら中を開けてみると……

「これ……」

昨日のクッキーが袋の中には詰められていた。

わたくしが作ったハート型と丸型、棗さんが作った不格好なネコ。

「その、なんだ……」

 

「おたんじょうび、おめでとう、だ……」

 

言った途端にポシュッ、と赤くなる棗さん。

きっとわたくしも同じだ。ほっぺがあつくなるのを感じる。

 

「あ、あなた、わたくしのために……」

「……ひとりでがんばろうとしたんだぞ。むずかしかった……」

 

袋の中から不格好なクッキーを一つ取り出し、ひとくち。

粉っぽいし塩も多いしチョコチップが一箇所に固まってしまっている。

だけれど……。

 

「おいしいですわ、とっても」