#二木さんがリトバスメンバーの成績の悪さに激怒しているようです。
とある放課後、生徒会室。
机が片付けられ、閑散とした生徒会室に僕たちリトルバスターズのメンバーが――正確には来ヶ谷さんと恭介以外が、そしてなぜか杉並さんまでもが――集結していた。
いや。
させられている、って言うよね……この場合だと。
「……」
僕たちの目の前には、青筋を浮かべた二木さんが腕を組んで仁王立ちしていた。
「ふ、二木よぉ、わざわざ正座なんてさせねぇでも……」
「(ギロッ!)」
二木さんの睨み一発で口をつぐむ真人。
それぐらいの迫力が今の二木さんにはある!
「…………」
巻き添えで一緒に正座させられている杉並さんも目に涙を浮かべてプルプルしている!
足をもじもじさせているあたり、もう足が痺れちゃっているようだ!
…………。
再度静寂が教室を包む。
「――私が言いたいことはわかるかしら」
カツカツカツ、と二木さんが歩きながら口を開いた。
「な、なんのことでショウカ、お姉ちゃん?」
「(ギロッ!)」
「ひぃやっ!?」
縮み上がる葉留佳さんを尻目に、二木さんがプリントの束をファイルから取り出した。
「これ」
うわっ! あ、あれは……!
二木さんの手にはチェック済みの……。
「私たちのテストだね~」
こんなときでも笑顔な小毬さんは正直すごいと思う。
「そう」
呆れたようにフンと鼻を鳴らす二木さんが別のプリントを取り出して黒板に貼り付けた。
「あなたたちリトルバスターズを部として認めたとき、この誓約書にサインしてもらったのだけど。全員分のサインがあるのは私の気のせい?」
「う……っ」
二木さんの鋭い眼光が僕に突き刺さり、言葉に詰まった。
――少し前だけど、僕たちリトルバスターズは部として認められた。
そのとき、二木さんが先生たちに話を通してくれる代わりに今黒板に張られている契約書にサインしたんだ。
そこの一項目にはこう書かれている。
『一つ、テストの成績を落とさないこと』
「…………」
ここに座る全員が全員とも成績がガタ落ちだから、何も言えないよ……。
「わふー、そ、それはその、みなさんで中国に旅行に行きましたので……」
「(ギロリン!)」
「わ、わふーっ!? あたかも般若のようなのですっ!?」
クドにまであんな顔を向けるなんて、相当二木さんは怒っている!
引きつる僕に、横で正座をしている謙吾が耳打ちしてきた。
「……二木の奴は中国旅行に連れて行ってもらえなかったことに怒っているのでは――」
「そんなわけがあるはずないでしょうっ!!」
「ぬおっ!? き、聞こえたのか?」
小さな声なのにすぐさま否定の言葉を重ねてきた。
うわぁ……。
ブツブツと「ふん。別に誘われても行くつもりはなかったけど」とか「どうせ面白くないし、行ったところで」と言っている辺り、とっても行きたかったみたいだ!
ちなみに僕たちは休みを利用して1泊2日で中国旅行に行ってきた。
二木さんには休日の予定をそれとなく聞いたら「仕事が忙しいから」と言ったので中国旅行には誘わなかったのだ。
代わり――と言ってしまうのは良くないけど、予定がない杉並さんを誘うことにしたんだ。
そのときに迷子になったり、恭介が空港で止められたり(俺の嫁と言ってPCゲームを持ってきたのがまずかったらしい)、真人が食あたりで病院に直行したり、来ヶ谷さんの夜這いを阻止したり、葉留佳さんがホテルに置いてけぼりになったり、杉並さんが騙されて偽物のバッグを買ってしまったり(偽ブランドだったので空港で没収された)したんだけど……それはまた別の話だ。
そして旅行明けに――テストがあった。
僕たちは旅行の準備で完全にそのことを忘れていた。
その結果は……説明するまでもないよね……。
「ハァ、呆れて何も言えない」
二木さんが大げさにため息をつく。
「旅行に行って成績を落としたなんて、怠惰どころの話ではないわ」
「約束は約束」
冷酷な目を僕たち全員に向けた。
「今週をもってリトルバスターズは部としての――」
『そいつは気が早すぎるだろ?』
突然の声が二木さんの声をさえぎった。
声がした方を見ると。
「すまなかったな。全部テスト前に旅行の計画をしちまった俺の責任だ」
いつものように恭介が窓から入ってきて、スタリと綺麗に床に着地した。
「棗先輩っ! 窓から入るなと何度言えば――」
「急いでたもんでな、リトルバスターズ存続の危機だろ」
二木さんの怒声もどこ吹く風で、恭介が僕たちのほうに歩いてきた。
「二木」
「なんですか、棗先輩?」
「あと一回チャンスをくれないか? 1度で部をなくす、というほど俺たちが悪いことをしたか? してないだろ」
「ぐ……」
口をつぐむ二木さん。
「た、たしかに感情的になりすぎた部分もあるかもしれません」
二木さんが怒らせていた肩の力を抜いた。
「ですが約束は約束です。今回はチャンスを認めるということで、次のテストで約束を守れない場合は部としての活動を禁止します」
「ああ、かまわん。約束だったからな」
「恭介っ」
声を出す僕を手で制して、恭介がニッと笑みを浮かべた。
「あの顔、また馬鹿兄貴のヤツなんか考えてるぞ」
「……今度は何をする気なのでしょう?」
鈴と西園さんの言うとおりだ。
あれは間違いなく何かを思いついた顔だ。
「二木、ちょっとそっち持って」
「え? この巻物は……」
疑問系でも巻物を持ってしまうところを見ると、二木さんも僕たちに馴染んでしまっている。
恭介がそれを走ってだーっと広げた。
「第2回全校対決・みんなDEバトルランキング優勝は誰だ大会~」
「はい拍手~」
…ぱらぱらと拍手が上がる。
「それってまさか」
「ご明察だ、理樹。一度はなくなってしまったが……」
恭介が言葉をためて、一気に放った。
「また……バトルランキングを再開する!」
「ヒャッホウ!」
「うおぉぉぉーっ!! 筋肉さんが強敵(とも)を求めて唸ってやがるぜ!!」
飛び上がるほどテンションが高い剣道着とハチマキの友達二人。
「な、棗先輩っ!」
「いいじゃないか、二木。あれなら遊んだ上で成績も上がって一石二鳥だろ?」
「ですが…」
言葉を濁す二木さんに恭介が言葉を続けた。
「お前ももちろん参戦な」
「…え?」
ぽかんとした二木さんの表情。
「うん~、かなちゃんも一緒にやろーやろー」
「わふー! やるのです~」
いつの間にか二木さんの横に小毬さんとクドがくっついていた。
「う……」
少し頬を染めた二木さんが、
「ま、まぁ、あれなら成績向上と言う私の出した目標を達成できますから……まぁ、私が見張りということなら認めても……」
嫌ではないらしい。
「オーケー」
ニカッと笑う恭介が説明を続けた。
「――今回はルールを変更する」
「え、変えちゃうの?」
「ああ。同じことをしても面白くないし、前回はドラゴンボールなみのHPのインフレもあったしな」
「「「「あぁ……」」」」」
みんなが頷く。
全校で対決したんだけど、本当に強い人には一切歯が立たなかったっけ。
僕なんて最高でも40位止まりだ……はぁ。
「そこで第一の変更点だ」
カッカッカッと恭介が黒板にチョークを走らせた。
そこには――
■1.テスト時間を2分に変更
「……前回の半分ですね」
「そうだ。あまり長いと差が開くからな。それに――」
恭介の目が、既に頭から煙を上げている真人に向けられていた。
「4分だと疲れるヤツもいる」
「私も4分はつらかったです」
「僕もかな」
うなだれるクドに相槌を打つ。確かに4分だと後半は大変だ。
「俺の想定なら400点は超えないと踏んでいる。もちろん予想を上回るヤツがこの学校には何人もいるから断言は出来んが」
そう言いながら、恭介がさっき書いた文字の下にチョークを走らせた。
■2.バトルに距離を設ける
「どういう意味だ、それは?」
謙吾が眉をひそめ首を傾げた。
「まずこの辺の攻撃カードを見てくれ」
みんなが恭介からカードを受け取った。
「わふー、色々な数字が書かれています……」
「ああ。後から説明を加えていく」
「棗先輩、随分と血生臭い言葉が書かれているのですが」
確かに今回のカードは説明文なんかも穏やかでないものが多い。
「まあ、カードゲームだからな。もうなくなっちまったが、昔俺が好きだったゲームから取っている。やるときは血糊が出る小道具も用意してあるぜ」
「そこまで準備すんじゃねぇよ……」
「遊ぶならとことんさ」
呆れ顔の真人に対して恭介の顔は涼やかだ。
「黒板に書いたことの説明に入るが……キャラ同士の間にも距離という概念を設ける」
言いながら恭介がメモリが6個ついた数直線を黒板に書いた。
「今までは直接攻撃も遠距離攻撃も名前ばっかりで普通に当たっていたよな。けどな――」
恭介が数直線の真ん中辺りに二人の絵を書いた。
片方に『理樹』と書いてもう片方に『俺』と書いている。
「例えば俺と理樹がこんなに近く――数直線で言うと二人の距離が0~1のときは【近距離】だ」
「このときは近距離攻撃を当てやすい。逆にボールを投げたりするような遠距離攻撃は近すぎて当たらないな」
恭介が今黒板に書いた『理樹』『俺』を手で消して、今度は二人の距離を開けて描いた。
「二人の距離が2~4のときは【中距離】だ」
「このときは近距離攻撃も当たるが、少し離れているから威力も弱まる」
「遠距離攻撃も当たるといえば当たるが、こっちもやはり威力が弱まるな」
「なるほど……離れてたら真人にキックしづらいな」
「なんでオレ限定なんだよっ!?」
「よし、ためしてみよう」
「だからなんでだよっ!?」
案外鈴と真人って仲いいよね。
「続けるぞ」
恭介が数直線の端と端に『理樹』『俺』と書いた。
「距離が5~6のときは【遠距離】だ」
「遠距離攻撃が威力を発揮する。もちろん近距離攻撃はまず届かないな」
「――恭介氏、つまり今回は距離による攻撃の駆け引きあり、ということでいいのだな?」
突然背に柔らかい何かが押し付けられる感覚――って!
「う、うわっ、来ヶ谷さん!? いきなり後ろから抱きつかないでよっ!」
「はっはっは、良いではないか。キミも最高だぜウッハウハと言って良いぞ」
「言わないからっ!!」
全くこの人はいつも突然現れるし、変なことをしてくるしっ!
けど来ヶ谷さんがこういう楽しそうなことに気づかないはずがないか。
「……このカードに書いている【近:20 中:10 遠:0】というのが距離のダメージと考えていいのでしょうか?」
「ああ。そのカードは近距離攻撃だな。遠:0ってのは遠距離だと当たらないってことだ」
「恭介くんー恭介くんー」
「なんだ、三枝?」
「ここに【前進1】って書いてるけど、これは?」
「それは攻撃と同時に相手との距離を一歩縮めるということだ」
「いつまでも同じ場所に立ってても当たらない攻撃は当たらないからな。攻撃と同時に移動するカードもある」
なるほど……。
今回は中々難しい戦いになりそうだ。
■3.デッキを組むときにはDPに要注意!
「カードの左上を見てくれ」
「ん? でぃーぴー? あれか、ニンテンドーDPSP」
「奇跡的に混じってるからね、鈴。で、これはなんなの?」
「それは【デッキポイント】だ。デッキを組むときに使う数字な」
「ふぅん、マイナスとプラスで分かれているのかしら?」
「ご明察だ、二木」
「相手に攻撃を加えるカードはマイナスのDPだ」
「わふー!? 『自分にダメージ30』なんてありますっ!」
「ふえぇ、こっちの攻撃力アップとかのカードはDP+3とか書いてるよー」
「ああ。補助系のカードや自分に被害があるようなカードはプラスのDPが書いてある」
「デッキを組む際は、必ずDPの合計が0以上になるようにしてくれ」
「……攻撃ばかりデッキに入れようとしても無理と言うことですか」
西園さんの言うとおりだ。
攻撃がマイナスのDPなら、入れれば入れるほどマイナスになってしまう。
プラスにするためには必ず補助カードやリスクのカードを入れなきゃいけない、ということか。
「うおぉおぉおぉーっ、めんどくせぇーっ! なんでこんな制限すんだよっ!」
思考回路がショート寸前の真人に恭介が親指を立てた。
「――むろん燃えるからだ」
聞くだけ野暮だった。
■5.キャラごとに属性がある
「おまえらに、自分の属性を決めてもらう」
「属性?」
首を傾げる僕に、恭介が説明を続けた。
「属性は地、水、火、風、光、闇、虚、無の8種類がある」
「これを用意することによって、自分が得意な属性、苦手な属性ができる」
「さらにカードにも属性が書いてある」
まだ今ひとつわからない。
みんなも首をひねっている。
「なに、じゃんけんと同じ要領さ」
「地は水に強く、水は火に強く、火は虚に強く……」
恭介が話しながらチョークで一つの輪を書いた。
【→地→水→火→虚→光→闇→風→地→】
「力関係はこうなっている」
カッとチョークを置いてこちらに振り向いた。
「例えば自分が闇属性だった場合だ。このときは光属性で攻撃されたら1.5倍のダメージがある」
「だが風属性には強い、といった要領だ。勝てない相手が出たときは属性を考えてデッキを組むのも手だろうな」
そっかぁ。
制約が増えた分、戦い方が増えたということだ。
これは一筋縄ではいきそうにない。
「はいはいはーい、恭介くーんっ」
「はい、三枝」
律儀に手を上げてる葉留佳さんを指す恭介。
「えーっと、例えば自分が水属性?にしたらそのカードばっかりしか手に入らないの? 他のカードもらえないとか?」
「いや、そういう制約は設けていない。せっかくあるなら色々なカードを使いたいだろ? それにカード集めも楽しみの一つでもあるからな」
「そっかー。いやー、それならはるちんのコレクター魂が燃え上がりますヨ!」
「ちなみに」
涼しげな顔を浮かべる恭介。
「カード総数は497な」
めちゃくちゃ多かった!
「――主な変更点はこんなところだ。わからないことがあったらまた聞いてくれ」
恭介が二木さんへと向きかえった。
「こんなかんじだ。どうだ二木?」
「はぁ、あなたと言う人は……なんでも遊びにしてしまうのですね。呆れてものも言えないわ」
盛大にため息を吐いているものの、その顔は楽しみにしているそれだった。
「開始はそうだな……近いうちに開催しようと思ってる」
「それまでに力を温存しておいてくれ」
「「「「「「「「おおーーーーーっ!!」」」」」」
」」
僕たちの声が夕方の教室に響く。
「それでは解散!」
「あ、あの……」
おずおずと杉並さんが手を上げた。
「お、なんだ杉並、質問か?」
「……た、立てない……」
……。
杉並さん……まだ正座してたんだ……。
以上ですw
まぁ、こんな感じのゲームですw