SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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137.こんなに近くで

 

 

 #こんなに近くで……

 

 

 いつもの昼休み。いつもの木漏れ日の木の下。

「西園さん、今日も来ちゃったよ」

「……またですか」

 本当は直枝さんが来てくれたことがどうしようもなく嬉しいのに、そんなことを言ってしまうわたし。

「では、どうぞ。本日の直枝さんの分です」

「おにぎりだね」

「いいえ、おむすびです」

「どう違うんだっけ?」

「……仕方ありません。直々にわたしがレクチャーするとしましょう。三角が……」

 

 

 いつもの昼休み。いつもの木漏れ日の木の下。

「西園さん、今日も隣いいかな?」

「……断っても座るじゃないですか」

 そそくさと体をずらすわたし。嬉しさに頬が染まる。

「では、どうぞ。本日の直枝さんの分です」

「おむすびだね」

「……昨日も言ったように、おにぎりです」

「あれ、どう違うんだっけ?」

「……溜息も枯れそうです。仕方ありませんので、またわたしがレクチャーするとしましょう」

「西園さん、いきいきしてるね」

「……いきいきなんてしてません。直枝さんがわかってくださらないので困り果てているところです」

 

――毎日と繰り返されるなんでもない時間が好きだった。

 他の誰でもない彼と共にする時間が好きだった。

 横で微笑んでくれる彼の笑顔が好きだった。

 笑いかけてくれる彼を見たくて、わたしもいつになく饒舌(じょうぜつ)になる。

 彼が笑いかけてくれるから、わたしも笑顔になる。

 

 彼のことが、心から好きだった。

 

 幾日が過ぎ行き想いが募る。

 そして冬が訪れ、中庭の時間は止まり。

 想いを伝える時間も止まり。

 

 

 

 春が訪れ、中庭の時間が動き出した。

 

 いつもの昼休み。いつもの木漏れ日の木の下。

「西園さん、久しぶりに一緒していいかな?」

「うみゅ…学食以外は初めてだぞ」

「……どうぞ」

 

 直枝さんには鈴さんという素敵な恋人ができた。

 

「……直枝さん、おむすびです」

「うん、ありがと」

「……」

「どうしたの? 西園さん?」

「……いえ、鈴さんもどうぞ」

「ありがとうだ、みお」

「あ、そうだ。西園さんにお礼にサンドイッチを持ってきたよ」

「……」

「どうしたの?」

「……なんでもありません……」

「調子が悪かったら、無理しちゃダメだよ。ね?」

「……はい」

 彼のいつもの優しい笑顔。

 いつものさり気ない笑顔ですらわたしの胸を締め上げていく。

 

 こんなにも近くで見つめていたのに。

 どうしてわたしはただの友達なのでしょうか……。

 もう、どんなに強く想ってもこの気持ちを……伝えられません……。

 

 

 いつもの昼休み。いつもの木漏れ日の木の下。

「西園さん、今日は僕一人だけど、いい?」

「……はい」

「……」

「元気ないよね?」

「……ただの寝不足です」

 慌ててあくびをして涙を隠す。

 

 一番大切な人に嘘を重ね、自分の気持ちに嘘を重ね、必死に彼の側にいられることを守ろうとしている滑稽なわたし。

 きっと……好きという気持ちが知られたら、彼の側にはいれない。

 だから、友達のまま…悲しい笑顔を浮かべる。

 

 

 初めて出会ったあの日々まで戻れればどんなに良いのでしょう…。

 

 

 直枝さんが去った後、呟いた。

 

「……直枝さん、大好きです……」

 

 届けたい気持ちは、青空へと吸い込まれていった。