#シチュ:理樹と佳奈多はお付き合いはしていません。理樹はいつも寮会の手伝い。佳奈多はそんな理樹にちょっとずつ……。
#佳奈多と理樹のほのぼの
>『Don't worry be happy』(モンゴル800より)
――晴れた日の日曜日。
今日はというと佳奈多さんと寮会で必要な物品の買出しだ。
「遅刻」
待ち合わせをしていた校門前では、すでに佳奈多さんが腕組みをして仁王立ちしていた。
佳奈多さんは、体のラインが綺麗に出る薄水色の長袖カットソーにジーンズの組み合わせという春らしい服装だ。
小さな白のポーチを肩から掛けている。
制服じゃない佳奈多さんを見るのは初めてかも。
「佳奈多さん、待たせてごめんっ」
「謝るくらいなら遅れないでくれないかしら?」
「時間の無駄」
いつもの鋭い眼光が注がれる。
前まではその目が怖かったけど、今はもうすっかりと慣れてしまった自分がいる。
そんなことを思って腕時計を見ると、針は13時1分を差していた。
「…1分しか遅刻してないよ?」
「はあ…だから?」
溜息までつかれるほどの遅刻じゃないと思うけど。
「遅刻は遅刻」
「1分も1時間も同義」
いかにも佳奈多さんらしい考え方だった…。
「あ…佳奈多さん」
「何よ?」
「桜の花びらがのってるよ」
しかも1つ2つではなく6~7枚はのっている。
「え?」
「頭に何枚も」
「……」
――ブンブンっ!
なぜか照れたように慌てて頭を振って花びらを落とす。
「…………」
「……フン」
突然ズカズカと歩き出す佳奈多さん。
「え、ちょっと待ってよっ!」
「いい。一人で買い物するから」
「いやいやいや、佳奈多さん一人で持てる量じゃないからっ」
……もしかして。
長い時間待たせちゃったのかな?
透き通る青い空の下を二人で歩く。
「待ち合わせに遅れるなんて最低ね」
「最低」
さっきまで怒っていた佳奈多さんも、今は文句を言いつつも僕と並んで歩いている。
並んで歩いている佳奈多さんの横顔に目をやる。
僕の気のせいかもしれないけど。
文句を言っている佳奈多さんの顔はどこか楽しそうに…見えなくもない。
……あれ?
『平日なら門は閉められていた』『委員での仕事で遅刻は厳禁だ』『私なんて昼も食べてないから』と話に夢中で僕が見ていることに気付かない佳奈多さんの顔。
もしかして…少しだけ化粧してる?
目的の大型ショッピングセンターに入り、二人でメモを確認しながら頼まれたものを次々に集めていく。
さすが佳奈多さんだ。
きっとリトルバスターズの面々では数時間以上掛かるであろう買い物を、効率よく済ませていく。
事務用品や100均の工具、さらには可愛らしいマグカップ(これが一番高かった)。
あっと言う間に終了だ。
佳奈多さんは買い物が好きなのかな。どこか浮き足立っていた。
「――これで全部終了だよ、佳奈多さん」
「……」
「佳奈多さん?」
「……なに?」
「これで買出し終了だよ」
「そ、そうね」
どこか歯切れが悪い。
時計を見ると16時。まだ帰るには少し早い時間だ。
佳奈多さんも手首を返して時計を確認している。
うーん……どうしよう。
どこかに寄ろうと言えば佳奈多さんは怒りそうだし。
「佳奈多さん」
「なによ?」
妙に佳奈多さんがそわそわしている気がする。
「買い物終わったけど…どうしよっか?」
「いちいち私に聞かないで欲しいわ」
興味なさ気にツンと僕から目をそらす佳奈多さん。
「そうだよね。じゃあ……――」
顔を背けている佳奈多さんが、僕の言葉を待つように一瞬だけチラリと僕を見た。
「うん、することもないし帰ろう」
「…え?」
キョトンとした佳奈多さんの顔が覗く。
「あれ、僕なんか変なこと言った?」
「言ってないわ」
「そうね、帰りましょう、さっさと。どうせなにもする事もないし面白くもないんだからさっさと急いで帰りたいわ」
なんか言い方に棘があるんだよなあ…。
ズカズカと出口に足を進めている佳奈多さんの後ろについて、僕も足を進める。
その時。
――くぅ~~~…。
佳奈多さんのお腹が可愛く鳴いた。
「……」
「……」
「もしかして佳奈多さん、お昼食べてない?」
「……」
――くぅぅ~~~
返事の代わりに佳奈多さんのお腹が抗議の声を上げていた。
「……」
「そこに人気のタコヤキ屋さんがあるんだけど……寄ろっか」
――きゅぅぅ~~~
僕は学校では絶対に見ることが出来ない佳奈多さんを見てしまった。
……恥かしさを堪え、顔を真っ赤に染めている佳奈多さんだ。
「――8個入りのを買ってきたから、そっち半分が佳奈多さんので」
二人でベンチに腰をかけ、真ん中にタコヤキを置く。
「忘れなさい」
ガンを飛ばされた…。
「今のことは絶対に記憶から抹消。いい?」
「何があっても抹消しなさい。命令だから」
「大丈夫だよ、誰にも言わな――」
そこまで口にした瞬間。
――ザク。
僕の方のタコヤキ一個に佳奈多さんが持った爪楊枝が突き立てられた。
――ぐっしゃぐしゃぐしゃっ!
「うわぁぁーーーっ、僕のタコヤキっ!?」
「……忘れなさい」
視線だけで僕の記憶を抹消しようとしているような目が向けられているっ!
しかも佳奈多さんの爪楊枝は次のタコヤキに狙いを定めてるしっ!
「……わ、わかりました」
「……フン」
納得したように、自分の分のタコヤキに爪楊枝を刺して口へ。
「あ――」
熱いよ、と言おうと思ったけど一足遅かった。
「熱っっ!」
――ポロッ。コロコロコロ…………――。
「「あ」」
地面には佳奈多さんの口に入る予定だったホカホカのタコヤキが無残に横たわっていた……。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……………………」
「いやいやいや、そんな膨れて僕を睨まれてもっ!」
――ザク。
――ぐっしゃぐしゃぐしゃっ!
「うわぁぁーーーっ、僕のタコヤキっ!?」
「ふんっ」
佳奈多さん、意外と子どもだっ!
二個目を食べる佳奈多さんを横目で見ていたら。
「ふぅ~っ、ふぅ~っ、ふぅ~っ……」
「……もう大丈夫かしら……ふぅ~っ…はむっ、あつっ、はぅっ」
「ははっ、焦りすぎだから」
「……」
――ザク。
――ぐっしゃぐしゃぐしゃっ!
「うわぁぁーーーっ、僕のタコヤキっ!?」
「ふんっ」
…こう言ったらまた何を言われるかわからないけど。
佳奈多さん、学校では絶対見られない可愛さを放ってるよ……。
――買い物と食事を済ませ、寮会の荷物を学校に置きに行ったときには既に日が傾いていた。
「「ふぅ…」」
二人で寮長室に荷物を下ろす。
「どっと疲れたわね…」
「いやいやいや、佳奈多さんがタコヤキの食べ方がヘタなだけだから」
「あそこのタコヤキが熱すぎるのよ」
……結局あの後もう一箱タコヤキを買って食べた。
二人で懸命に「ふぅ~、ふぅ~」として食べる様子がおかしくて、二人ともツボにハマってしまって大変だったっけ…。
「――それにしても」
佳奈多さんが寮長室を見渡す。
「帰って来た、って気がするわね」
家に着いたようなホッとした溜息を吐き出す。
「確かにね。最近ここにいる時間の方が長いもんね」
夕焼けの教室。
また月曜日から佳奈多さんと僕とで仕事をする教室。
「――じゃあ、用も済んだし私はもう帰るわ」
「ご苦労様」
佳奈多さんが教室のドアから出ようとしたとき。
「直枝」
突然振り返った。
「どうしたの?」
「右から2番目の袋」
「?」
「それ、あげるから」
「え? 佳奈多さん、それは――」
「また明日」
僕が言い終わる前に佳奈多さんは足早に歩き去ってしまった。
「……2番目の袋?」
首をかしげながらもその袋を開けると。
「これは……」
そこには、さっき二人で買ったマグカップが入っていた。
「あ…」
さらにカードが袋に無造作に入れられていた。
『いつもお疲れ様。
明日からそのマグカップを使って。
私からのお礼の気持ちだから』
「佳奈多さん……ありがとう」
僕は佳奈多さんのマグカップの隣にそのマグカップを置き、教室を後にした。
どうでもいい余談。
「よお、二木」
「宮沢、なんの用?」
「昨日なんだが、12時30頃に校門の前で何をしていたんだ?」
「しきりに辺りを見回しては時計を確認…正直、怪しかったものでな」
「……宮沢」
「なんだ?」
「服装規定違反で職員会議にかけてもらう様、生活指導の先生に言っておきます」
「ちょっと待て!? 今まで何のお咎めもなかったぞっ!!」
「待て、二木!! 待て、待ってくれぇぇぇーーーっ!!」