SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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191.サヤちゃんがバレンタインチョコを渡すようです【だがしかし】

【SS】サヤちゃんがバレンタインチョコを渡すようです【だがしかし】

 

――2月14日。日曜日。

朝方の誰もいない喫茶『エンドウ』。

仕込みの後にアタシ、サヤと兄貴の豆で向い合って座っていた。

「――サヤ、本当にやるんだな…?」

「――やるよ。今日こそ……やってやる」

「そうか……ブツは用意したのか?」

アタシは無言で手に持っていたソレをテーブルの真中に出した。

可愛くデコレーションされたソレ。

昨日の夜、何度も何度も失敗して作ったチョコレートだった。

「おっ、ハート型かよ! おま、がんばったな!」

「そっ…それだけ今回は本気だってこと」

そう。今回のアタシは一味違うのだ。

いつもは学校だったから渡せなかったり、渡せても「んっ! んっ!」ってチロルチョコを渡すのが限界だったけどさ…。

今日は!

今日こそはっ!

コッ、コッ、ココナツに、ア、ア、アア、アタシの気持ちを伝えてやるんだからっ!!

「おまえの本気、見せてもらったぜ。――今日の作戦説明に移るぞ」

「う、うん」

意識もしてないけど、ゴクリと喉がなってしまう。

「――今日は日曜日だ。ココナツのヤツはいつもの休みのパターン通り誰も客がいない時間帯、15時にウチにくる」

豆が似合わないサングラスをカチャリと直した。

「その前におまえはおめかしタイムな。可愛くめかし込んでこい。どうせこの雪じゃココナツ以外の客なんて来やしないさ。フロアに誰もいなくたって問題ねぇよ」

それ喫茶店としてどうなの、とも思っちゃうけど今はどーでもいい。

大事なのはココナツの気持ちを掴むことだからね。

「そして15時。ココナツが来た時にすぐさまチョコを渡すんだ。おまえのことだ、ココナツの顔を見て別のことを話したら絶対に渡せなくなんぜ」

「そ、そうだね」

くっ……悔しいけど兄貴の言うとおりだ。

何度かそれで渡すタイミングをなくして自分で自分のチョコを食べた時があったっけ……。

「渡すときはそうだなぁ……『あなたが好きです』って直球どうよ?」

「え!?へ!? むっ、むーり無理無理無理無理っ!!」

あ~~~想像しただけで顔熱っ! 無理っ! マジそれ無理っ!

「だよな、さすがにハードルが高ぇ。なら――『アタシの気持ちだ受け取れ!』とかでどうよ? ハート型だしな。伝わりやすいだろ」

「そ、それなら何とか」

「んじゃ、オレが『たまたま』フロアに下りてきて『ずっと悩んでたんだぜ、おまえに気持ちを打ち明けるの。お前のこと、好きなんだとよ』とクールに援護射撃してやんよ」

「う……なんか微妙だけど……」

とはいえ、正直自分で、す、す、好きって言える気がしない……。

えぇい、もうヤケクソだ!

「そ、それでおねがい!」

「了解だっ!」

ビシッと親指を立てる兄貴。

――今日、アタシの運命が決まるっ……!

 

***

 

――14時…50分。

――どっきどっきどっきどっきどっきどっき!!

 

ああああと10分くらいでココナツくるっ!

あああと10分くらいっ!!

 

――うろうろ、うろうろ。

――どっきどっきどっきどっきどっきどっき!!

――うろうろ、うろうろ。

 

「……おいサヤ、もう少し落ち着けって」

「おおおおおおちちちちつつつついてるからっっっ!!」

「……あー……座ったらどうよ?」

「すすすすすわる? あ、あ、そ、そうだね。えとえとえと、よいしょっと」

「床に体育座りすんなよ……。お。ココナツからLINEだ」

「ええええええええっ!? な、な、ななななななななんだって?」

「そろそろ来るってよ。いつも通りだな」

「そそそそそそそそそう!! どどどどどどうしようっ!!」

「どうしようも何も、来たら渡す、だ。作戦通り、オレ、バック下がってるから」

あ、兄貴がバックに下がっていった……。

………………。

…………。

……。

 

――ドキドキドキドキドキドキドキ!!

あぁぁぁぁっ、くっ、口から心臓が飛び出して来ちゃいそうっ!

 

――ドキドキドキドキドドドドドドドドドドドド!!

も、もう、く、来るなら早く来てぇぇぇっ!!

 

 

ドアが。

――チリンチリン

開いた。

 

 

きたっ!? きききききききたぁぁっっ!!

ああああああもうっっっっ!!

女は度胸ッ!!

なるようになれぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっっ!!!

 

アタシは手に持っていた、アタシの好きの気持ちがたっぷりつまったチョコを、

思いっきり差し出した!!

 

「ここここここここれねっ! あのっ! あのねッ! アッ、アッアタシのっ、きき、き、気持ちだからっ!! あんたのことがっ、ずっと前からっっっ!!」

 

「さ、サヤ師……?」

「ずっとずっと前からッッ……………………へ……………………?」

顔を上げると。

「え、わ、私……?」

「え…………ほ、ほたるちゃん……?」

ポカン、という形容詞がこれ以上にないくらいに似合っているほたるちゃんが立っていた。

ほたるちゃんがなんでここに?

ぽかんと突っ立てるほたるちゃんと、真っ赤な顔でほたるちゃんにハート型のチョコを突き出しているアタシ。

あたかも女の子が女の子に告ってる感じじゃん。

 

じゃなくてぇえぇえぇえぇえぇえぇーーーーー!!!!

えええええええええええええぇぇぇぇぇーーーー!?!?

 

「さ、さっ、サヤ師……!?」

「あああぁぁぁあぁ、ほ、ほた、ほた…!?」

 

絶賛テンパってる時にひょっこり兄貴が顔を出した。

そして。

クールにつぶやいた。

 

「――サヤのやつ、ずっと悩んでたんだぜ、おまえに気持ちを打ち明けるの。お前のこと……好きなんだとよ」

 

うん。計画通り。

……。

ってねぇぇぇぇ!!

援護射撃じゃないよソレっ!!!

フレンドリーファイアだからっっっっ!!!

アタシが女の子が好きな性癖を思い切って打ち明けたみたいになってんじゃん!!

「あ、いっけねっ☆」じゃないだろ兄貴ぃぃぃ!!

 

「さ、サヤ師……」

「ほっ、ほたるちゃん、ち、違うのっ! こ、これには深いわけが……」

あれ、なんかほたるちゃんの顔、赤いような……。

「サヤ師っ!」

 

――がばーっ!!

いきなりハグされたっ!?

 

「今までさぞかしつらかったでしょうねっ!!」

「はぁっ!? ほたっ、むぐっ、く、くるしい……」

「きっと常識と自分の想いの狭間でさぞかし揺れていたのね!」

なんかよくわからないけど、ほたるちゃんの頭の中でドラマティックなことが展開しちゃってる!!

「ほたるちゃん、こ、これはねっ」

「ええ、わかったわ! け、けど、わ、私も女性を受け入れるまでには時間が必要よ。まずは友達……いえ、もう友達ね! 友達以上恋人未満からはじめましょうっ!!」

「えええええっ!? いやっ、アタ――」

ほたるちゃんの腕がアタシの腰に回され、もう片方の手の人差し指でアタシの唇を押さえた。

宝塚の男役が女役にキスをするときのようなポーズになってるし!

なんで!?

どうしてこうなった!?

「これ以上言葉を紡がなくてもいいの。落ち着きなさい、サヤ師……。私はもう逃げないわ。落ち着いて……ほら……」

ほたるちゃんの指が。

アタシの唇をなぞってる……。

「ごめんなさい、貴女のその想いに気づかず……」

なんて優しい手つき……。

「これからは……」

優しげな瞳。

魅惑的で蠱惑的な瞳。

「ずっと一緒にいましょうか……」

ほたるちゃんの整った綺麗な顔が近づいてくる……。

なんかアタシ、アタシ、もう……。

 

――カランカラン。

「う~さむいっ! 雪が降ってきたよサヤちゃんんんんなななななんぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

ドアを開けたココナツが固まっていた。

劇画調で。

「あら、ココノツ君」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

「――…………ハッ!?」

い、今アタシ何しようとしてた!?

えっ!? ほたるちゃんと!?

一瞬あたま真っ白になってたしっ!!

じゃなくて!!

「コ、ココナツ!! これはそのあの、なんと説明したらいいのかさっ!!」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

「えええっと、ほら、あれ! バレンタインのチョコを渡そうとしたらほたるちゃんがさ!」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

「どうやらココノツ君には今のシーンは刺激的すぎたようね。初代ファミコンのごとくバグってるから何を言っても無駄よ」

 

 

この後、アタシは誤解を解くのに1時間、バグったココナツを治すのに1時間を費やしたのだった……。

結局手作りチョコはほたるちゃんで、ココナツにはいつも通りのチロルチョコだった。

アタシの気持ちを伝えるの、またしばらく後になりそう……。

ハァ……。

 

後日談。

「サヤ師、キスしましょう! 若干濃厚なやつでいいわ!」

「若干濃厚って何!? ってか、しないからねっ!?」

……あの日からほたるちゃんからのスキンシップは増えたのは気のせいか……?

 

 

 

190.サヤちゃんのヤキモチ【だがしかし】

【SS】サヤちゃんのヤキモチ【だがしかし】

 

#シチュ:駄菓子屋の息子ココノツと、喫茶店の娘のサヤは幼なじみ。

サヤはココノツのことが好きだけど激ニブのココノツは気づきもしなかった。

そんなとき、ココノツの元に駄菓子マニアのほたるちゃんが現れ、毎日のようにココノツのところに顔を出していた。

 

夏休み。午後2時の喫茶エンドウ。

誰もいない店内。

珈琲の香りとボリュームが絞られた静かなピアノ曲。

昼時の客が引いて片付けを終えた後のこの時間は、サヤにとってくつろぎの時間であった。

クーラーの効いた店内で、熱い珈琲をお気に入りのマグカップにコポコポと注ぎカウンターに腰を下ろした。

「あれからずっと使ってんな……」

クールなサヤには少し不釣り合いな可愛らしいマグカップ。

それを触るサヤの手つきは愛おしい物を触るかのように優しい。

去年の誕生日に、幼なじみのココノツからもらったものだった。

スマホをエプロンのポケットから取り出し、ギャラリーを遡る。

「これこれ、懐かしー」

サヤとサヤの兄貴、それにココノツが満面の笑みでホールのケーキと一緒に写っていた。

「あの時、ホールケーキが嬉しかったけど、最後の方は甘くて食べられなかったんだよなぁ」

結局サヤがギブアップし、ココノツが完食したのだ。

次のページからは何度も撮り直したこのマグカップの写真だ。

「何枚撮ってんだアタシ……」

11枚だった。

(アイツからの初のまともなプレゼントだったし、しょーがないだろ……)

あの時のテンションを思い出すと未だに顔が熱くなる。

さらにギャラリーをめくる。

 

――秋。

アイツと無駄に湖に行った時の写真。

兄貴とアイツが猛烈な勢いでアヒルを漕いでいる写真、アイツが笑顔でピースしている写真。

それと兄貴から送ってもらった、アイツとアタシがアヒルを漕いでいる写真。

写真から二人の笑い声が聞こえてきそうな――そんな生き生きとした表情の二人。

 

――冬。

アイツと鍋をした時の写真。

青森の名物(?)とかいうせんべい汁だ。

あのおせんべいが入っている鍋。

アイツに教えず、鍋を開けさせた時のびっくりした表情が写真に収められていた。

あと、こたつでアイツとアタシが並んで鍋をつついている写真。

アタシ、ヤバイ幸せそうな顔してんじゃん……。

 

――春。

桜満開の写真。

お花見に行った時の写真だ。

アタシがアイツを待たせてしまって、頭の上に桜の花びらが何枚もついていた写真。

爆笑したっけ。

あとアイツと兄貴が千本くじでガチで悩んでいる写真だ。

二人してPS4をあててやる!と言って、シンプソンズのパパのぬいぐるみを引き当てたときの写真ももちろん収めてある。

アイツがアタシが作ってきた弁当を食べてるときの写真もある。

いい笑顔してんじゃん……。

アイツに「美味しいね、サヤちゃん」と言われて焦った時の顔も兄貴に激写されて、送りつけられたわけだけど……それも何やかんやで取ってある。

 

――夏。

アイツと、女の子が写っている。

アタシじゃない。

枝垂ほたるちゃんだ。

アタシの友達。

夏にココノツのところに突然顔を出して、そこから良くみんなで遊ぶようになった。

アタシより断然女の子らしいスタイルで。

アタシより断然可愛らしい。

次もココノツとほたるちゃん。

二人とも楽しそうに駄菓子を頬張っている。

次もココノツとほたるちゃん。

なんで二人でチャンバラごっこなんてやってるんだか。

どっちも楽しそう。

次もココノツとほたるちゃん。

いい年してジャンケンマシンにハマっている二人の様子が収められていた。

どっちも活き活きとしている写真だ。

変わってるけど面白いし、一緒にいても飽きないアタシの友達……。

 

「……はぁ……」

サヤから自然と深い溜息が出ていた。

「どうした、妹?」

「うなぁあぁあぁぁぁ!? あ、あ、兄貴っ!? いいいいつからそこにっ!?」

「部屋から下りてきてお前がため息付いてるところ」

兄、トウが焦れったそうにその金髪をボリボリと掻いた。

「告れば?」

「ブフーーーッ!?」

「どぅわっ、珈琲吹くなよ!? かかったじゃぇかっ!!」

慌てて兄がカウンターに布巾がけだ。

「だっ――ゲホッゲホっ、だって、ゲホッグホッ…むせ、むせたっ」

「だっておまえ、バレバレだろ。ココナツは鈍いから全く気づいてないけどよ」

「え、な――ゲホゲフッゲホッ……いや、そそそんなんじゃないし……」

最後の方はそれこそ蚊の鳴くような声でほとんど聞こえないようなものだ。

「はぁあぁあぁぁぁ~~~……まぁいいけどよ。――コレ」

トウが2枚のチケットを差し出した。

「なにこれ? 映画のチケット?」

「ココナツと二人で行ってこいよ」

しばらく2枚のチケットを見つめていたサヤだったが。

「つーかウチに映画館ないじゃん。隣町行かないとないじゃん」

「だから隣町まで二人きりでバスの旅になんだろ」

「……」

「…………」

「………………~~~~~~」

本人は隠しているつもりだろうが、サヤの顔はめっっちゃくちゃ嬉しそうだった!

「よしっ! ココナツにそれ渡す練習しようぜっ」

「んなことしなくていいって」

「そー言ってできないのがおまえだろーがよ。いいからやってみろって」

「そ、そう? んじゃ――」

一呼吸ついたサヤが、映画チケットをトウに差し出した。

「映画にさ……」

満面の笑みが咲いた。

「一緒にいこっ♪」

嬉しさが零れそうな、幸せを目一杯にした愛くるしい笑顔だった。

「…………」

「……ど、どう? いい?」

「……やべぇ……まじやべぇ……兄だけど、ときめいちまった……」

「…きしょ…」

ガチの顔だった……。

 

――カランカラン。

喫茶店のドアが開けられた。

 

「いらっしゃいませ――あ、こ、ココナツ」

「サヤちゃん、こんにちは~」

入ってきたのはココノツ。

「ちょっとココノツ君、ここは私が華麗なポーズで入店するところじゃないかしら?」

と、ほたるだった。

最近のいつも通りだ。

「二人ともいらっしゃいー」

二人がいつものようにカウンターに座り、サヤとトウがカウンターの内側へ自然に移動する。

「二人とも、今日も珈琲でいい?」

「あ、いや、実は――」

「いいわココノツ君、私が話すわ……」

某暴走ロボットの司令のように手を組み神妙な顔つきをするほたる。

「あれはついさっきのことよ……。今日はウメトラ兄弟について熱いディスカッションしてたの……」

http://maruhide.qt-space.com/articles/3e4.jpg公式ページより

 

「あんたらそんなディスカッションしてたの……」

サヤは呆れ顔だ。

「けどその個数のディスカスになった時よ! 私が「三兄弟なのに4個入りなのはおかしい」と言ったらココノツくんが「え、3個だよ」って言うじゃない!?」

ダンとカウンターを叩く。

「私が子どものころ、毎日のように疑問に思っていた『3兄弟なのに4個入り』問題なの! 確信があったから調べることにしたわ、もちろん。私は自信満々だったから「なんでもするわ」って言ったの。それでウメトラ兄弟を見たら――サヤ師、どうだったと思う!?」

「え? 3兄弟だから3個じゃないの?」

「そうなのよっ!!」

顔を両手で多いおめおめとし始めた。

「確かに昔は4個入りだったの! なのになぜ! なぜ3つになっちゃったのよ!!」

「今から5年位前かと思うけど、4個から3個になったんだよね。不況の煽りだと思うよ。そんなわけで……」

ココノツが笑顔を崩した。

「今日はほたるさんにパフェをおごってもらうことにしたんだ。サヤちゃんのとこでも滅多に食べれないしね」

「サヤ師、ここにある一番高いパフェをココノツ君にお願い! 払いはカードでいいかしら!?」

「現金でお願い……。んじゃ、ジャンボチョコパフェだけどいい?」

「うん、お願いするよ」

 

サヤはチョコパフェを作り始めた。

カウンターで途切れることのない会話に花を咲かせるココノツとほたるを背に。

 

***

 

「――はいよ、ジャンボチョコパフェ。食べきれんの、ココナツ?」

ココノツの前に、ゴトリと30センチはあるパフェが置かれた。

 

「コ、ココノツ君、なにこれ……! パフェの上に……上に……マカロンが乗ってるわっ!?」

「そうそう、これは喫茶エンドウ、というかサヤちゃんの本気が見られるパフェなんだ。マカロンとキャラメリゼのアーモンド、チョコクッキー、風味のあるバニラにふんだんにチョコレートシロップがかけられた一級品だよ。ほら見てみてよ。中もクリームとチョコの層の間にキャラメルも混ざっているんだ」

「そ、そう……」

「……そんなヨダレ出しながらガン見されても……」

「そ、そう……」

「さすがにこの量は一人だと大変だし、ほたるさんも一緒に食べようよ」

「え、いいの!? 一緒に食べてもいいのっ!?」

ピクリ、とサヤの肩が反応した。

「いいよ。というかそもそもほたるさんのお金だしさ。サヤさん、もう一つスプーンをもらってもいい?」

「……え? ああ」

「はい、ほたるさん。あ、僕からだからね」

「わ、わかってるわ……」

「じゃあ、このアーモンドキャラメルの部分から……」

「ああっ!?」

「……じゃあ、こっちのチョコの方から。パクっ……おおっ!! これはっ!!」

「わ、私もいいかしら!? こ、このアーモンドキャラメルの部分いいかしら!?」

「……最初からそこ狙いじゃん……」

「そんなことはないわ、絶対に! では早速……はむっ……はぁっ! こ、このキャラメルの香ばしさとアーモンドのハーモニー……それにチョコがまじり……」

「うわ……ほたるさん、すんごいヤバイ絵面になってるよ……あ、次僕はマカロ」

「ああっ!?」

「……」

「……」

「……さすがにこれは一つしかないし、半分こにしようよ」

「ええ、いいわ。けどマカロンは粉砂糖の固まり…崩れやすいから、私が半分食べた後にココノツ君よ」

「わかった、それでいいよ」

「…………はむっ……はぁあぁ……少し歯で触れるだけで崩れる歯ごたえ、舌の上でとけるお砂糖……はぁあぁ……。満足よ。ココノツ君、ほら、あ~~~ん。ほら、口を開けなさい。あ~ん」

 

 

 

――ガチャンッッッッ!!

 

 

サヤが。

お気に入りのマグカップを床に叩きつけていた。

 

 

――――………………。

静寂が喫茶店を塗りつぶしていた。

砕け散ったマグカップのかけらがトウの足元で動きを止めた。

 

「……………………あ………………」

サヤが声を漏らした。

何をしたのかわからない、そんなキョトンとした顔。

「…………ッ!」

だが即座に全速力とも言える喫茶店から飛び出していった。

 

「え……? サヤ……ちゃん……?」

残された二人はただただ呆然と座っていたが。

 

――ビシッ!

トウのデコピンがココノツに飛んでいた。

「おまえなぁ……。――悪ぃ、あのバカのこと追っかけてやってくれねぇか?」

「え……あ……うん!」

きっとまだ何が起こったのかわかっていないココノツだが、すぐさま喫茶店から飛び出していった。

「ほたるちゃんは悪ぃけど、片付け手伝ってもらえねぇか?」

 

***

 

防波堤の上。

そこにサヤは膝を抱えて座っていた。

 

なにやってんだ、アタシ……。

涙が止まらなかった。

 

なんなんだ、アタシ……。

胸が張り裂けそうだった。

 

なんでこんなことになったんだよ……。

つらかった。

ひたすらにつらかった。

 

「……――サヤちゃ~~~~んっ」

遠くからココノツが駆けてきた。

「くんなっ!!」

「ハァッ…ハァッ…ようやく見つけたよ」

くんな、といったのに横に座ってくるココノツ。

「サヤちゃん、えと……急にどうしたのさ?」

「……くんな、っつたじゃん……」

サヤの目はココノツを向くことはなかった。

「ご、ごめん。サヤちゃんが心配だったから……」

「……」

「……」

「……ほたるちゃんってさ、可愛いよね」

「? いきなりそんなこと言われても困るけど、まぁ、可愛いとは思う」

「……だよね」

膝を抱える腕にギュッと力がこもる。

「……」

「……」

「……ココナツさ」

「……うん」

「……ほたるちゃんのことさ」

「……うん」

「………………どう思ってたりすんの?」

「どうって言われても。変人だよね」

「……そういうんじゃなくてさ……」

「うーん、そう言われても友達は友達かな」

「…………友達……か」

「うん」

「…………なんかそれ以上とかじゃなくて?」

「あははは、それはないないっ! 絶対ない!」

「……ない? 絶対?」

「ないない」

サヤが、ココノツを見た。

「そっか……」

サヤから深い深い、力が抜けるようなため息が漏れた。

「ココナツってさ」

「うん?」

「バカだよね」

「はぁぁ!? いきなりなんでそんなこと言われなきゃいけないの!?」

ごそごそとポケットを漁るサヤ。

「ん」

ココノツに向けて紙切れを差し出した。

「んっ!」

「な、なにこれ?」

「映画のチケット。見てわかんないわけ?」

「え、えーと……」

「アタシと映画に行ったら許してやる」

サヤはココノツを見てはいなかったが、その顔は耳まで真っ赤だった。

「え!? あ……いや……よくわかんないけど、わかった」

「ココナツってさ」

「うん?」

「バカだよね」

「はぁあぁあぁ!?」

「あはははははっ! 約束だからな、忘れたら殺すからっ! ほら、ほたるちゃんも心配してるだろうし、戻ろ!」

「いや、え!? なんで僕サヤちゃんにそんなにバカバカ言われてんの!? あ、待ってよサヤちゃんーっ!」

 

ココノツを見つめるサヤの顔はどこか嬉しそうだった。