SSブログ TJ-Novelists

アニメやマンガ、ゲームから妄想したSS(ショートストーリー)を書き綴るブログです。

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190.サヤちゃんのヤキモチ【だがしかし】

【SS】サヤちゃんのヤキモチ【だがしかし】

 

#シチュ:駄菓子屋の息子ココノツと、喫茶店の娘のサヤは幼なじみ。

サヤはココノツのことが好きだけど激ニブのココノツは気づきもしなかった。

そんなとき、ココノツの元に駄菓子マニアのほたるちゃんが現れ、毎日のようにココノツのところに顔を出していた。

 

夏休み。午後2時の喫茶エンドウ。

誰もいない店内。

珈琲の香りとボリュームが絞られた静かなピアノ曲。

昼時の客が引いて片付けを終えた後のこの時間は、サヤにとってくつろぎの時間であった。

クーラーの効いた店内で、熱い珈琲をお気に入りのマグカップにコポコポと注ぎカウンターに腰を下ろした。

「あれからずっと使ってんな……」

クールなサヤには少し不釣り合いな可愛らしいマグカップ。

それを触るサヤの手つきは愛おしい物を触るかのように優しい。

去年の誕生日に、幼なじみのココノツからもらったものだった。

スマホをエプロンのポケットから取り出し、ギャラリーを遡る。

「これこれ、懐かしー」

サヤとサヤの兄貴、それにココノツが満面の笑みでホールのケーキと一緒に写っていた。

「あの時、ホールケーキが嬉しかったけど、最後の方は甘くて食べられなかったんだよなぁ」

結局サヤがギブアップし、ココノツが完食したのだ。

次のページからは何度も撮り直したこのマグカップの写真だ。

「何枚撮ってんだアタシ……」

11枚だった。

(アイツからの初のまともなプレゼントだったし、しょーがないだろ……)

あの時のテンションを思い出すと未だに顔が熱くなる。

さらにギャラリーをめくる。

 

――秋。

アイツと無駄に湖に行った時の写真。

兄貴とアイツが猛烈な勢いでアヒルを漕いでいる写真、アイツが笑顔でピースしている写真。

それと兄貴から送ってもらった、アイツとアタシがアヒルを漕いでいる写真。

写真から二人の笑い声が聞こえてきそうな――そんな生き生きとした表情の二人。

 

――冬。

アイツと鍋をした時の写真。

青森の名物(?)とかいうせんべい汁だ。

あのおせんべいが入っている鍋。

アイツに教えず、鍋を開けさせた時のびっくりした表情が写真に収められていた。

あと、こたつでアイツとアタシが並んで鍋をつついている写真。

アタシ、ヤバイ幸せそうな顔してんじゃん……。

 

――春。

桜満開の写真。

お花見に行った時の写真だ。

アタシがアイツを待たせてしまって、頭の上に桜の花びらが何枚もついていた写真。

爆笑したっけ。

あとアイツと兄貴が千本くじでガチで悩んでいる写真だ。

二人してPS4をあててやる!と言って、シンプソンズのパパのぬいぐるみを引き当てたときの写真ももちろん収めてある。

アイツがアタシが作ってきた弁当を食べてるときの写真もある。

いい笑顔してんじゃん……。

アイツに「美味しいね、サヤちゃん」と言われて焦った時の顔も兄貴に激写されて、送りつけられたわけだけど……それも何やかんやで取ってある。

 

――夏。

アイツと、女の子が写っている。

アタシじゃない。

枝垂ほたるちゃんだ。

アタシの友達。

夏にココノツのところに突然顔を出して、そこから良くみんなで遊ぶようになった。

アタシより断然女の子らしいスタイルで。

アタシより断然可愛らしい。

次もココノツとほたるちゃん。

二人とも楽しそうに駄菓子を頬張っている。

次もココノツとほたるちゃん。

なんで二人でチャンバラごっこなんてやってるんだか。

どっちも楽しそう。

次もココノツとほたるちゃん。

いい年してジャンケンマシンにハマっている二人の様子が収められていた。

どっちも活き活きとしている写真だ。

変わってるけど面白いし、一緒にいても飽きないアタシの友達……。

 

「……はぁ……」

サヤから自然と深い溜息が出ていた。

「どうした、妹?」

「うなぁあぁあぁぁぁ!? あ、あ、兄貴っ!? いいいいつからそこにっ!?」

「部屋から下りてきてお前がため息付いてるところ」

兄、トウが焦れったそうにその金髪をボリボリと掻いた。

「告れば?」

「ブフーーーッ!?」

「どぅわっ、珈琲吹くなよ!? かかったじゃぇかっ!!」

慌てて兄がカウンターに布巾がけだ。

「だっ――ゲホッゲホっ、だって、ゲホッグホッ…むせ、むせたっ」

「だっておまえ、バレバレだろ。ココナツは鈍いから全く気づいてないけどよ」

「え、な――ゲホゲフッゲホッ……いや、そそそんなんじゃないし……」

最後の方はそれこそ蚊の鳴くような声でほとんど聞こえないようなものだ。

「はぁあぁあぁぁぁ~~~……まぁいいけどよ。――コレ」

トウが2枚のチケットを差し出した。

「なにこれ? 映画のチケット?」

「ココナツと二人で行ってこいよ」

しばらく2枚のチケットを見つめていたサヤだったが。

「つーかウチに映画館ないじゃん。隣町行かないとないじゃん」

「だから隣町まで二人きりでバスの旅になんだろ」

「……」

「…………」

「………………~~~~~~」

本人は隠しているつもりだろうが、サヤの顔はめっっちゃくちゃ嬉しそうだった!

「よしっ! ココナツにそれ渡す練習しようぜっ」

「んなことしなくていいって」

「そー言ってできないのがおまえだろーがよ。いいからやってみろって」

「そ、そう? んじゃ――」

一呼吸ついたサヤが、映画チケットをトウに差し出した。

「映画にさ……」

満面の笑みが咲いた。

「一緒にいこっ♪」

嬉しさが零れそうな、幸せを目一杯にした愛くるしい笑顔だった。

「…………」

「……ど、どう? いい?」

「……やべぇ……まじやべぇ……兄だけど、ときめいちまった……」

「…きしょ…」

ガチの顔だった……。

 

――カランカラン。

喫茶店のドアが開けられた。

 

「いらっしゃいませ――あ、こ、ココナツ」

「サヤちゃん、こんにちは~」

入ってきたのはココノツ。

「ちょっとココノツ君、ここは私が華麗なポーズで入店するところじゃないかしら?」

と、ほたるだった。

最近のいつも通りだ。

「二人ともいらっしゃいー」

二人がいつものようにカウンターに座り、サヤとトウがカウンターの内側へ自然に移動する。

「二人とも、今日も珈琲でいい?」

「あ、いや、実は――」

「いいわココノツ君、私が話すわ……」

某暴走ロボットの司令のように手を組み神妙な顔つきをするほたる。

「あれはついさっきのことよ……。今日はウメトラ兄弟について熱いディスカッションしてたの……」

http://maruhide.qt-space.com/articles/3e4.jpg公式ページより

 

「あんたらそんなディスカッションしてたの……」

サヤは呆れ顔だ。

「けどその個数のディスカスになった時よ! 私が「三兄弟なのに4個入りなのはおかしい」と言ったらココノツくんが「え、3個だよ」って言うじゃない!?」

ダンとカウンターを叩く。

「私が子どものころ、毎日のように疑問に思っていた『3兄弟なのに4個入り』問題なの! 確信があったから調べることにしたわ、もちろん。私は自信満々だったから「なんでもするわ」って言ったの。それでウメトラ兄弟を見たら――サヤ師、どうだったと思う!?」

「え? 3兄弟だから3個じゃないの?」

「そうなのよっ!!」

顔を両手で多いおめおめとし始めた。

「確かに昔は4個入りだったの! なのになぜ! なぜ3つになっちゃったのよ!!」

「今から5年位前かと思うけど、4個から3個になったんだよね。不況の煽りだと思うよ。そんなわけで……」

ココノツが笑顔を崩した。

「今日はほたるさんにパフェをおごってもらうことにしたんだ。サヤちゃんのとこでも滅多に食べれないしね」

「サヤ師、ここにある一番高いパフェをココノツ君にお願い! 払いはカードでいいかしら!?」

「現金でお願い……。んじゃ、ジャンボチョコパフェだけどいい?」

「うん、お願いするよ」

 

サヤはチョコパフェを作り始めた。

カウンターで途切れることのない会話に花を咲かせるココノツとほたるを背に。

 

***

 

「――はいよ、ジャンボチョコパフェ。食べきれんの、ココナツ?」

ココノツの前に、ゴトリと30センチはあるパフェが置かれた。

 

「コ、ココノツ君、なにこれ……! パフェの上に……上に……マカロンが乗ってるわっ!?」

「そうそう、これは喫茶エンドウ、というかサヤちゃんの本気が見られるパフェなんだ。マカロンとキャラメリゼのアーモンド、チョコクッキー、風味のあるバニラにふんだんにチョコレートシロップがかけられた一級品だよ。ほら見てみてよ。中もクリームとチョコの層の間にキャラメルも混ざっているんだ」

「そ、そう……」

「……そんなヨダレ出しながらガン見されても……」

「そ、そう……」

「さすがにこの量は一人だと大変だし、ほたるさんも一緒に食べようよ」

「え、いいの!? 一緒に食べてもいいのっ!?」

ピクリ、とサヤの肩が反応した。

「いいよ。というかそもそもほたるさんのお金だしさ。サヤさん、もう一つスプーンをもらってもいい?」

「……え? ああ」

「はい、ほたるさん。あ、僕からだからね」

「わ、わかってるわ……」

「じゃあ、このアーモンドキャラメルの部分から……」

「ああっ!?」

「……じゃあ、こっちのチョコの方から。パクっ……おおっ!! これはっ!!」

「わ、私もいいかしら!? こ、このアーモンドキャラメルの部分いいかしら!?」

「……最初からそこ狙いじゃん……」

「そんなことはないわ、絶対に! では早速……はむっ……はぁっ! こ、このキャラメルの香ばしさとアーモンドのハーモニー……それにチョコがまじり……」

「うわ……ほたるさん、すんごいヤバイ絵面になってるよ……あ、次僕はマカロ」

「ああっ!?」

「……」

「……」

「……さすがにこれは一つしかないし、半分こにしようよ」

「ええ、いいわ。けどマカロンは粉砂糖の固まり…崩れやすいから、私が半分食べた後にココノツ君よ」

「わかった、それでいいよ」

「…………はむっ……はぁあぁ……少し歯で触れるだけで崩れる歯ごたえ、舌の上でとけるお砂糖……はぁあぁ……。満足よ。ココノツ君、ほら、あ~~~ん。ほら、口を開けなさい。あ~ん」

 

 

 

――ガチャンッッッッ!!

 

 

サヤが。

お気に入りのマグカップを床に叩きつけていた。

 

 

――――………………。

静寂が喫茶店を塗りつぶしていた。

砕け散ったマグカップのかけらがトウの足元で動きを止めた。

 

「……………………あ………………」

サヤが声を漏らした。

何をしたのかわからない、そんなキョトンとした顔。

「…………ッ!」

だが即座に全速力とも言える喫茶店から飛び出していった。

 

「え……? サヤ……ちゃん……?」

残された二人はただただ呆然と座っていたが。

 

――ビシッ!

トウのデコピンがココノツに飛んでいた。

「おまえなぁ……。――悪ぃ、あのバカのこと追っかけてやってくれねぇか?」

「え……あ……うん!」

きっとまだ何が起こったのかわかっていないココノツだが、すぐさま喫茶店から飛び出していった。

「ほたるちゃんは悪ぃけど、片付け手伝ってもらえねぇか?」

 

***

 

防波堤の上。

そこにサヤは膝を抱えて座っていた。

 

なにやってんだ、アタシ……。

涙が止まらなかった。

 

なんなんだ、アタシ……。

胸が張り裂けそうだった。

 

なんでこんなことになったんだよ……。

つらかった。

ひたすらにつらかった。

 

「……――サヤちゃ~~~~んっ」

遠くからココノツが駆けてきた。

「くんなっ!!」

「ハァッ…ハァッ…ようやく見つけたよ」

くんな、といったのに横に座ってくるココノツ。

「サヤちゃん、えと……急にどうしたのさ?」

「……くんな、っつたじゃん……」

サヤの目はココノツを向くことはなかった。

「ご、ごめん。サヤちゃんが心配だったから……」

「……」

「……」

「……ほたるちゃんってさ、可愛いよね」

「? いきなりそんなこと言われても困るけど、まぁ、可愛いとは思う」

「……だよね」

膝を抱える腕にギュッと力がこもる。

「……」

「……」

「……ココナツさ」

「……うん」

「……ほたるちゃんのことさ」

「……うん」

「………………どう思ってたりすんの?」

「どうって言われても。変人だよね」

「……そういうんじゃなくてさ……」

「うーん、そう言われても友達は友達かな」

「…………友達……か」

「うん」

「…………なんかそれ以上とかじゃなくて?」

「あははは、それはないないっ! 絶対ない!」

「……ない? 絶対?」

「ないない」

サヤが、ココノツを見た。

「そっか……」

サヤから深い深い、力が抜けるようなため息が漏れた。

「ココナツってさ」

「うん?」

「バカだよね」

「はぁぁ!? いきなりなんでそんなこと言われなきゃいけないの!?」

ごそごそとポケットを漁るサヤ。

「ん」

ココノツに向けて紙切れを差し出した。

「んっ!」

「な、なにこれ?」

「映画のチケット。見てわかんないわけ?」

「え、えーと……」

「アタシと映画に行ったら許してやる」

サヤはココノツを見てはいなかったが、その顔は耳まで真っ赤だった。

「え!? あ……いや……よくわかんないけど、わかった」

「ココナツってさ」

「うん?」

「バカだよね」

「はぁあぁあぁ!?」

「あはははははっ! 約束だからな、忘れたら殺すからっ! ほら、ほたるちゃんも心配してるだろうし、戻ろ!」

「いや、え!? なんで僕サヤちゃんにそんなにバカバカ言われてんの!? あ、待ってよサヤちゃんーっ!」

 

ココノツを見つめるサヤの顔はどこか嬉しそうだった。

 

189.リトバスメンバーが牡蠣を食べるようです【リトルバスターズ】

#シチュ:リトバスメンバー+二木さんで牡蠣を食べるようです。

※キャラ崩壊注意です(ぉ

 

いつものように恭介、謙吾が僕たちの部屋に集まっていた。

「明日だけどな」

恭介の声に、僕は宿題のノートから顔を上げた。

「牡蠣を食おう」

「また随分と急だね……」

「こいつが言い出すことはいつだって急だからな」

と、宿題から顔も上げない謙吾だ。

「いやな、この前就活の帰り道で船のスクリューが壊れて困っている漁師に出会ったんだ」

いつもよくわからないところに就活に行ってると思う。

「運良く機材は持ってたからな、俺がそれを修理した」

「なんで機材持ち歩いてんだよ……」

腹筋中の真人のツッコミもその通りだ。

「さっきその漁師から、今年は牡蠣が大漁だからお礼の意味も込めてもらってほしい、と連絡が来たんだ。もらわないわけにはいかんだろ」

「ほう…牡蠣か」

謙吾が反応した。なんか目が輝いてるような……。

「牡蠣の殻開けで右に出るものがいないと言われているこの俺の技術を見たい…そういうことだな、恭介!!」

どうでもいいスキルきたっ!

「ああ、期待してるぜ、謙吾」

「うわぁあぁあぁ、燃えてきたぁぁぁ!!」

「待てよ謙吾っち……」

ゆらりと真人が立ち上がった。

「オレが開けてやるぜ……素手でな!!」

「なにぃ? ならば俺は左手だけだ!」

「ならオレは指だ!!」

「俺は気だ」

「マジかよ!? ノータッチだと筋肉が活かせねじゃねぇかぁぁぁーっ!!」

「いーやいやいや、二人とも対抗しなくていいからーっ」

「――LINE送信完了と。明日は朝は抜いておけよ? 昼はたっぷりいくぜ」

 

***

 

翌日の土曜日。

暖かい日差しが降り注いでいるなか、いつもの野球をやっているグラウンドで準備が進められていた。

「――神北さんとクドリャフカ、そこにブルーシートを移動して」

「はいなのです~」「りょうかいっ」

「棗さん、西園さんは学食に紙皿とプラコップを用意してあるから持ってきて」

「(チリン)」「……了解です」

「……なぁ恭介よぅ」

「どうした真人?」

「なんで二木のやつがしきってんだ?」

「二木にバーベキューセットが学校にあったら貸してほしいと頼んだんだ。すると『あなた達に任せておくのは危なそうだから私も参加するわ』と言われてな」

「それってよ、実は二木も参加したかっただけじゃねぇのか?」

「いや、無類の牡蠣好きの線もありそうだな」

「そこ! 井ノ原は倉庫からバーベキューセット2セット持ってきて。棗先輩は火起こし担当」

うん。

すごい張り切りようだ。

いつものリトルバスターズの集まりだと、二木さんは風紀委員だけあって誘いにくくて一緒には遊んでいない。

もしかしたら、僕達と一緒に遊びたかったかも……。

「直枝は何をニヤニヤしているの!」

「え!? あ、いや」

「あなたと来ヶ谷さん、宮沢で和室からあの大きなちゃぶ台を持ってきて。テーブルがあったほうが食べやすいわ」

「お姉ちゃんお姉ちゃん、わたしは何したらいいっ?」

「葉留佳はそうね、ジュースを学食の冷蔵庫に入れてあるから持ってきて」

「はいよーっ」

こうして二木さんの指揮のもと、テキパキと準備が進められたのだった。

 

***

 

「「「かんぱーいっ!!」」」

 

ブルーシートに腰を下ろし、大きなちゃぶ台をみんなで囲んでの乾杯だ。

「理樹、これどーやって食べるんだ?」

「ポン酢か醤油が一般的だね」

「わふーっ! 身がふっくらしていますっ! とってもクリーミーなのです~っ」

「……牡蠣は『海のミルク』と呼ばれているくらい栄養価が高いです」

「ほえぇ、そうなんだ~。海のミルクとろっとしてておいしいね」

「小毬君、今の『ミルクとろっと』をもう一度頼む。物欲しそうな顔でだ」

「ゆいちゃん? みるく……とろっと……?」

「エロい……」

来ヶ谷さんは相変わらずダメそうだ。

バーベキューセットの方に目を移すと。

「オレは素手で牡蠣をひっくり返すぜぐわぁぁぁぁ熱っっーーーっ!!!!」

「ふん、俺が手本を見せてやろう。これはそろそろ返してもうわぁぁぁぁ熱っっーーーっ!!!」

「オーケー、そろそろ俺の出番のようじゃないか」

「「恭介!!」」

「秘技……三ノ舞ッッッ!!」

――カカカッ!

「「1度に3つの牡蠣をひっくり返しただとぉぉぉーーー!?」」

普通にトングでひっくり返そうよ……。

 

横に座る二木さんに目を移す。

「……」

牡蠣を見つめていた。

「どうしたの、二木さん?」

「はじめてなのよ、牡蠣」

「え、そうなの?」

てっきり大好きなのかと思った。

「ポン酢で?」

「うん」

まるで猫がルンバを初めて見たような興味深そうな顔で、ポン酢をかけた牡蠣を口に運んだ。

そして……ぱくりっ。

「うッ!?」

「うわーっ、お姉ちゃんヤバイヤバイっ!!」

葉留佳さんが急いでティッシュを差し出した。

あー……。

牡蠣は好き嫌いがはっきり別れる食べ物だけど……どうやら二木さんはダメな方だったみたいだ。

「…………マズイわ、マズイ」

すんごい涙目になっていた。

「お姉ちゃんってば、ハンバーグとかそういう子供っぽい食べ物ばっか好きだもんね」

「……うるさい」

さっきまでスゴイ楽しみにしていたみたいだし、これはちょっと可哀想だ。

「おっと。牡蠣が苦手なヤツもいると思ってな。はまぐりも貰っておいたぜ」

さすが恭介。準備が良かった。

「……はまぐりをいただきます」

「オーケー、今調理してやるから待ってろ」

そこから数分。

「ほらよ、二木」

「ありがとうございます。――へぇぇ、ふーん」

「気に入ったか?」

さっきとは打って変わって、嬉しそうな雰囲気。

二木さんって、すごくわかりやすい。

「そいつははまぐりの酒蒸しだ。日本酒と醤油で味を整えてある。酒といっても加熱でアルコールは飛んでるから安心してくれ」

「……もう少しもらってもいいですか?」

「ああ、はまぐりもかなりの量を貰ってるからいくらでも作ってやるぜ」

 

***

 

牡蠣が食べれない二木さんだったけど、はまぐりの酒蒸しは美味しそうにいくつも食べていた。

相当気に入ったようだ。

けど……。

二木さんの様子がおかしいと気づいたのはそれからしばらく経ってからだった。

 

***

 

開始から2時間、みんな食後のまったりモードに入っていた。

僕もお腹はかなり膨れて、くつろぎモードに入っていた。

 

――こてん。

 

僕の肩に、温かな何かが乗っかってきた。

ふわりとミントの香りが漂う。

なんだろう、と思って首を動かすと……。

 

「ふ、二木さんっ!?」

ふ、ふ、二木さんの頭が、僕の肩にこてんって、こてんって乗っかっているっ!?

「な~お~え~」

しかも、声がすごく甘えたような甘い声になっているっ!!

「かた、借りちゃったわ……なおえのかた~ふふふ」

…………。

……。

「えええええええーーーーーーっ!?」

二木さんが甘えん坊になってるよっ!?

「きょ、恭介これって!?」

「……はまぐりの酒蒸しだが……もしかしたら調理が甘かったかもしれん」

「えええええーっ!? も、もしかして二木さん、酔ってるの!?」

そう言ってるそばから、

「なおえ、手。んっ」

二木さんが僕の方にピンと手を伸ばしてきていた。

「え、えと……手?」

「そ。手」

「えと……手がどうしたの?」

「手がさみしいの。さわって」

なんかスゴイことになっていた!!

「二木は普段抑制されているせいか、飲むと甘えん坊になるタイプのようだな」

「恭介はそういう分析いいからーっ」

まわりに助けを求めようと目を上げると、

「佳奈多さん、かわいいのですーーーっ!」

みんなの目からキラキラとお星様が飛んでいた!

「わわ、私も佳奈多さんのお隣に移動しても、よっ、よろしいでしょうかっ?」

言うやいなやそそくさと二木さんの横に移動したクド。

すると……

「いらっしゃい、クドリャフカぁ♪」

――ぎゅっ

クドが近づくと直ぐに、二木さんが後ろに回りこんで、ぎゅっと抱きしめていた!

「クドリャフカは後ろからぎゅってするのが一番きもちいいの」

「佳奈多さん~、わふっ、ほっぺスリスリがくすぐったいのです、もっとしてください」

「クドリャフカぁ♪ う~んクドリャフカやわらかい~」

「もっともっとぎゅってして欲しいのです」

ここぞとばかりに要求を出しているのは気のせいかな!?

「もっともっと? こう? こうかしら? ふふふ、これでどう?」

「ふやぁ~……佳奈多さんにこんなにされて、とっても幸せなのですぅ~」

なぜかクドも顔を赤らめながら二木さんのされるがままになってるし!

目もうっとりしちゃっているのは気のせいかな!?

「……こ、これは良い百合です……たまりません……」

西園さんも見てるだけなのに興奮気味だ!

「む~クド公ばっかずるいっ! お姉ちゃん、わたしにもっ!」

対抗意識を燃やした葉留佳さんも二木さんをつついた。

「なによ、はるか?」

クドを開放した二木さん。

「お姉ちゃん、こっちも」

葉留佳さんは手を広げて受け入れの体勢だ。

「はるかぁ」

ぽふん、と葉留佳さんの腰に手を回し顔を胸に埋める形で抱きつく二木さん。

「はるか、はるか、はるかぁ♪ はるかのにおい……♪」

まるでご主人様と再開した子犬のように嬉しそうに葉留佳さんの胸に顔を押し付ける二木さん!

「これは……ヤバイですヨ……」

頬を赤らめた葉留佳さんが顔を上げた。

「お姉ちゃんが可愛すぎて、なんかなんか……お持ち帰りしたいっ!」

「いやいやいやいや、すごくアブナイこと言ってるからねそれっっっ!!」

「けどけどっ」

葉留佳さんが胸元の二木さんに目を戻すと、

「ねぇ、はるか、わたしのこともぎゅっとして…だめ?」

とろけるような表情で葉留佳さんに全てを委ねてしまっている感じだ!!

「ほら、これですヨっ!! いつもツンケンしてるお姉ちゃんがコレですヨこれ! これでぎゅっとしてみると……ほらほらっ、あの鉄仮面のお姉ちゃんがこんなイケナイ表情してくれるんですヨ!! こんなん見て何もしないなんて女が廃るってもんだーっ!」

「葉留佳さん目が本気だよねっ!? ダメだからねホントにっっっ!!」

「次は私なのですーっ! 早く変わってくださいっ!!」

「クドもなんでそんなに対抗意識燃やしてるのさーっ!」

この日は、葉留佳さんとクドの二木さん争奪戦が勃発したのだった……。

 

 

次の日。

「死んでやるっっ!!」と屋上のフェンスをよじ登る二木さんをリトルバスターズ総出で必死に止めに入ったのは言うまでもない……。